NTT東日本は、福島県の地域スーパー「いちい」(福島市)、岡山理科大学とともに、2022年1月から「好適環境水を用いた完全閉鎖循環式陸上養殖のビジネス化に向けた実証実験」を行っていたが、7月20日、世界初となるベニザケの陸上養殖に成功し、21日からいちい店舗における試験販売を行うと発表した。ビジネスベースでの完全閉鎖循環式陸上養殖におけるベニザケ養殖の成功は世界初となる。
左からNTT東日本 澁谷直樹社長、いちい 伊藤信弘社長、岡山理科大学 平野博之学長
安心安全な魚を福島から
実証実験が福島県の地域スーパー「いちい」で始まったのは、いちいの伊藤社長の「震災によって安心・安全な福島産の魚を売ることができなかった痛切な経験が大きい」という。「いちいは、もともと魚屋から始まったこともあり、何とかして皆様に美味しい安全な魚を届けたい、それには自分たちで魚を作るしかないか」という話もしていたという。
昨今の海面漁業では、温暖化に伴う高水温化などの環境変動や世界的な魚介類に対する需要増加などのさまざまな要因が複合的に影響して、生産拡大余地のある漁場資源の割合は 2017年時点で6%程度と水産資源の枯渇が危ぶまれている。また、日本国内の漁業・水産業界では高齢化や人手不足が深刻化しており、水産従事者・技術者の経験に基づく判断・作業が主流の従来の方法では、今後の水産業全体の活性化に向けて限界がある。
こうしたなかで、地域活性化に取り組んできたNTT東日本は、好適環境水の技術を保有し養殖ノウハウを持つ岡山理科大学と、いちいとの三者で、沿岸部・内陸部の場所を問わず生産可能でICT利活用による生産環境のマネジメントが可能な、完全閉鎖循環式陸上養殖のビジネス化を目指して実証実験に取り組んできた。
好適環境水を用いた完全閉鎖循環式陸上養殖でベニザケを育てる水槽
「完全閉鎖循環式陸上養殖」×「ベニザケ」
ベニザケは病気に弱く、成長が遅いことが理由で、これまで事業規模の養殖に成功していない。ICT活用による生育環境管理体制の構築により、ビジネスベースで世界初となるベニザケ養殖事業となった。
生産プラントは、いちい本社内に置き、水産生物の効率的な陸上養殖を目的として開発された人工海水・好適環境水を利用した養殖システムとした。好適環境水は、海水中に含まれる成分のうち、魚の成長に必要なナトリウム・カリウム・カルシウムに絞り込んで構成されている。塩分濃度も海水よりも低く調整されており、魚の浸透圧調整に関わるストレス軽減・消費エネルギーの削減が見込まれ、浸透圧調整に使っていたエネルギーを成長に回せることで、一部の魚類で成長促進されることが確認されているが、今回、普通は4年かかるところ、高級魚のベニザケを1年半で成魚に成長させることに成功した。
ベニザケ養殖事業における三者の連携のイメージ
養殖プラントの設備構築と運用をNTT東日本が担当し、水槽には水質センサーやカメラがついていてリアルタイムで確認できる。いつでも、遠隔の岡山理科大学から専門的な指導をうけ適切な飼育が行える。このスマート養殖技術で、養殖のデータとノウハウを生産レシピとして活用することができる。
いちいでは、福島県の廃校を活用して新たな養殖プラントを準備しており、福島県への貢献・地場産業創出の観点で規模を拡大し、さらにビジネス化を進めていく。
NTT東日本は、この間、トマト栽培、タマネギ栽培はじめ農業生産設備の確立と運用マネジメント、データ活用による生産ノウハウ、リモート支援などスマート農業に取り組んできた。澁谷社長は、「本プロジェクトでも、ICTで支援することができることがはっきり分かった。持続可能な循環型の地域社会の実現を目指し、そのためには一次産業の活性化は欠かせない、さらにこの分野に注力していく」と述べた。