「業務システム」の要件:既存IT資産を有効活用 鍵は“まとめてつなげる”
企業としては当然、投資を抑えつつ次世代情報端末のメリットを享受したいと考える。したがって、「業務システム」は既存のIT資産を有効活用する方針とし、その上で新たに求められる要件と実現の方向性を以下に示す。
まず、業務システムは次世代情報端末との間のデータ送受信が必須である。したがって、アプリケーションから操作しやすいREST(Representational State Transfer)やSOAPなどの形式に対応していると活用の幅が広がる。
また、企業には複数の業務システムが存在するため、業務システムごとに端末とのデータ送受信機能を開発することは非効率である。特にレガシーシステムが存在する場合、それ自体に大きな更改が発生する場合がある。
そのため、複数の「業務システム」をスムーズに連携させ、「端末」との間のデータ送受信を効率的に行うためには、SOA(Service Oriented Architecture)のような連携基盤の活用が有効である。
さらに、利用者への連絡やコンテンツの配信など、業務システムから端末に制御を行うケースが増えると考えられる。そのため、業務システムでプッシュ配信を利用できる仕組みを用意する必要がある。
デモ構築による検証
抽出した次世代情報端末の特性をビジネスで最大限に活用するための「システム」の要件について、その実現性を検証するためにデモアプリケーションを構築した。デモ画面のサンプルを示したのが図表3だ。
図表3 PhoneGap、Sencha TouchおよびEntierで構築したデモの画面 |
このデモは、保全業務を想定して作成されたもので、現場作業員が迅速かつ適切に作業を行えるための仕組みを提供している。
巡視などの計画的な保全業務を行うために、1日の作業内容をワークオーダー(作業指示)として次世代情報端末で取得し、画面を見ながら作業を進めることができる。その傍ら、お客さまから緊急の申出があった際には、プッシュ配信を利用して社内サーバーから最寄りの現場作業員へ通知し、合わせて必要な情報の提供も行える。
そのほかにも、地図(設備図)の確認や「お客さま」「お申出」「作業履歴」といったさまざまな情報を検索し閲覧することも可能となっている。
デモアプリケーションは前出のPhoneGap、Sencha社の「Sencha Touch」(注3)、日立ソリューションズのセキュアな組み込みデータベース「Entier」で構築されている。主にiPadでの動作検証を行ったが、Android端末での動作も確認できている。
「業務システム」にあたる、情報を発信するサーバーはWindows Server 2003(開発・実行環境は日立のuCosminexus Developer Standard)を用いている。
なお、実際に技術検証およびデモ構築を行った結果を詳細に記したホワイトペーパーが日立製作所のホームページから入手可能となっている。次世代情報端末の特性を活かしたシステム作りのため、ぜひ参考にしていただきたい。
『スマートフォン/タブレット業務徹底活用 - 導入編 – 』(http://www.hitachi.co.jp/cosminexus/whitepaper/)
注3:Sencha Touch
Sencha社による、HTML5に対応したJavaScriptベースのモバイルアプリケーション開発フレームワーク。iPhone/iPad、Android搭載端末向けのWebアプリケーションを開発できる
総括
次世代情報端末が企業の根幹に入ってくる時代はすぐそこまで来ている。場所や時間、利用者のスキルによる制限を受けない新時代のシステムは、ビジネスや生活のスタイルを大きく変えるだろう。過去に話題になった「ユビキタス」が、ようやく我々の手元まで来たように感じる。
我々は本連載において、スマートフォン/タブレット端末を指して「次世代情報端末」という言葉を用いてきたが、スマートフォン/タブレット端末は「次世代情報端末」中の先行した1つに過ぎないと考えている。今後、洗濯機や冷蔵庫などの家電、自動車、ビルや工場の設備機器、さらには都市を支えるインフラ設備などあらゆるものが情報の出入口、つまり情報端末として利用されるようになると考える。
我々はこれら次世代情報端末を活用し、ビジネスや生活を支える新たな技術の開発とビジネスへの応用に積極的に取り組んでいく方針である。