1. 戦略の改革
顧客にとって魅力的な商品やサービスを継続的に提供し、企業と顧客、双方の利益を長期間にわたって生み出し続ける。これがCRMの目的である。
この観点から、次世代情報端末の登場により、企業の「戦略(Vision)」がどのように変わるのかを「セグメンテーション・ターゲティング(V-1)」、「価値創出(V-2)」、「顧客接点(V-3)」、「顧客価値向上(V-4)」の4項目に注目して説明する。図表3をご覧いただきたい。
図表3 スマートフォン/タブレット端末活用のポイント(戦略) |
「セグメンテーション・ターゲティング(V-1)」は、顧客の属性に応じた適切かつ細やかなサービスを提供する方法を規定する。顧客が常に次世代情報端末を携帯するようになったことから、どの顧客がどこで何をしているといったリアルタイムな情報(行動変数)を取得できるようになった。
この情報に基づき、企業が顧客に対して適切な情報を発信することで、より多くの売上が期待できる。これを実践した事例としては、外食産業を展開しているワタミによる、エリアや時間帯に応じたクーポン配信が挙げられる。また、顧客が次世代情報端末経由で購買を行う場合は、PCを経由する際よりも精緻に行動ターゲティングを行うことが可能となる。
「価値創出(V-2)」は、商品の特性(メッセージや価格・品質)を顧客に説明し、価値を感じてもらい、店舗などの顧客接点まで誘導するプロセスを規定する。ここでポイントとなるのは、スマートフォンやタブレットで使われるアプリである。これが、広告メディアの1つとして認知されるようになってきた。ただし、アプリへ直接誘導することは難しいため、通常は交通広告や新聞広告などと組み合わせたクロスメディアで展開される。
アプリはビジュアルに多くの情報を顧客に提供することが可能なメディアである。顧客セグメントに応じたクーポンを配信したり、店舗への道順を案内することも可能である。2010年末から開催されたイベント「空と宇宙展」で、小惑星探査機はやぶさの3Dモデルが付属した広告アプリが展開されたが、これなどが事例として挙げられる。
また、このプロセスにおいては、次世代情報端末をデジタルサイネージとして活用することも有効である。ソリューションもすでにさまざまなものが用意されており、衣料品小売店などでの活用事例がある。
「顧客接点(V-3)」は、営業店やコンタクトセンター、ECサイトなど、顧客が商品に触れ、購買の意思決定を行う場を規定する。
次世代情報端末は新しい顧客接点の価値を創造する大きな可能性を秘めている。例えば、通販アプリはすでにさまざまな小売業で展開されているが、ここにGPSで取得した位置情報を付与すれば、場所に依存せず顧客に直接対面することも可能となる。
好例が、宅配ピザのドミノ・ピザ ジャパンのスマートフォン用アプリである。顧客がこのアプリ経由で注文すれば、例えば公園やイベント会場などの住所のわからない場所からの注文であっても、GPS測位により地点を容易に割り出すことができ、商品を配達できる。
また、クレジットカードリーダーやバーコードリーダーを次世代情報端末に取り付けて、在庫管理や決済に用いることもできる。これにより、PCの設置が困難な屋外の出張店舗などでも販売が容易となる。
このほか、今後の活用が期待されるソーシャルメディアを利用した顧客と企業のコミュニケーションにおいても、次世代情報端末は重要な役割を占めることになるだろう。
「顧客価値向上(V-4)」は、顧客ロイヤルティを高めるための仕組みを規定する。アプリを使い、顧客を囲い込み、過去の購買履歴から関連商品やお薦め商品を示すことで、より多くの商品の購買を促すことができる。
また、情報の発信力も無視できない。自分が購買した、あるいは興味を持った商品の情報をソーシャルメディアなどで共有することで、その商品に対する顧客の思い入れが高まり、かつ、他の消費者の注意を喚起し商品への興味を持たせることができるかもしれない。