NVIDIAテレコムウェビナー2022レポートGPU/DPUが広げるMEC・データセンタービジネスの可能性

エヌビディアは2022年12月9日、オンラインセミナー「NVIDIA テレコムウェビナー 2022」を開催した。テレコム業界向けとして日本初開催となる今回のウェビナーでは、MECビジネスの可能性やデータセンターの運用効率を向上させるSmartNIC/DPUの最新動向などが語られた。

GPU+AI/グラフィック技術が可能にする多彩なワークロード

セッションの後半ではMECで提供できる具体的なワークロードが紹介された。

まず紹介されたのが、監視・モニタリングなどの分野で利用が広がってきている映像解析AI(IVA)技術を用いたワークロードである。

橋本氏は「最近は特に小売・製造業で注目されている」としたうえで、その具体例として米AiFi社の完全無人店舗について説明した。

AiFiの店舗では、入店時の認証を必要とせず、来店客が商品を手に取るだけで、その商品がカウントされ、最後にレジで会計を済ませて退店できるシームレスなショッピング体験が実現されている。

これを可能にしているのがIVAだ。来店客の関節の動きを識別し、これをアバターに変換して、来店客が店内を移動・回遊する間、天井に設置したカメラでトラッキングするシステムである。RFIDタグなども不要だ。

AiFiは、米国の大手通信事業者ベライゾンの5GによるMECサービスをこのデータ処理に利用して、世界最大のレーシングイベントである「インディアナポリス500」に臨時店舗を出店、1日あたり5000ドル以上を売り上げたという。

インディ500に出店した臨時店舗ではベライゾンのMECサービスが利用された

インディ500に出店した臨時店舗ではベライゾンのMECサービスが利用された

製造業のワークロードでは、イギリスのイプソティック(Ipsotek)社が、セキュリティカメラを活用して、IVAで工場従業員のソーシャルディスタンスの確保(感染症対策)を実現したケースが紹介された。このシステムは危険エリアへの侵入禁止などにも利用されているという。

ASR(Automatic Speech Recognition)やNLP(Natural Language Processing)、TTS(Text-To-Speech)などといわれる、音声・言語系AIを活用したアプリケーションも期待されている。コンタクトセンターの自動応答システムや障害を持つ方のための手話サービスなどのアプリケーションが、エヌビディアのSDK「Riva」を利用して開発されているという。

橋本氏が、AIとともにMECの有力なワークロードになると見ているのが、グラフィック処理の分野だ。

例えば、エヌビディアが提供するSDK「CloudXR」を活用し、AR/VRによる共同作業や共同学習などのアプリケーションが開発されており、英BTは車載用バッテリーメーカーに共同作業用のAR/VRアプリケーションを提供している。

グラフィックス分野における最先端のワークロードとしては「NVIDIA Omniverse」もある。仮想空間上でさまざまなデータを映像化し、共同作業/共同研究などを可能にする。

Omniverseには、3D CADデータなどを元に仮想空間上に質感や反射、映り込みなどを含めて、正確な「複製」を描き出すデジタルツインツールとしての機能がある。すでにアマゾンがこれを用いて、配送センターの運用の最適化、人員削減・生産性の向上を実現している。米国のホームセンター、Lowe’sもOmniverseで顧客の導線データを可視化し、店舗レイアウトの最適化を図る取り組みを行っているとのことだ。

Omniverseと前述の音声AIを組み合わせて、ファーストフード店でAIアバターによる接客を実現している事例も紹介された。AIアバターは、来店客とのイレギュラーな「会話」にも対応できるように進化しているという。

SmartNIC/DPUでデータセンターアーキテクチャを変革

このように通信事業者が提供するMEC上でさまざまなワークロードが提供されることが期待されているが、その基盤となる分散データセンター環境はどう構築していけばいいのだろうか。

エヌビディア ソリューションアーキテクチャ&エンジニアリング シニアソリューションアーキテクトの野田孝氏による「DPU/SmartNIC を用いた高速化技術やユースケース」と題したセッションでは、DPU/SmartNICによるデータセンターアーキテクチャの変革の必要性を提起された。

「5Gなどのサービスでは、厳しい性能要件や品質要件が求められる。ネットワーキングやコンピューティングリソース基盤も大きくスケールアウトさせる必要があり、同時にセキュリティも強化しなければならない。昨今のソフトウェア定義されたクラウドインフラでは、ネットワーク、ストレージなどのデータ処理をサーバーのCPUだけで処理するのは限界に来ている」

野田氏はこう指摘したうえで、SmartNICとDPUが、データセンターが直面するこうした多くの課題の解決策になりえるとした。

データセンターに設置されているサーバーやストレージ、ネットワークゲートウェイなどの装置はNIC(Network Interface Card)を介して、イーサネットなどのネットワークで結ばれている。

SmartNICは、このNICにASICやセキュリティなどのハードウェアアクセラレーターエンジンを搭載することで、ホストサーバーのCPUで行われている仮想スイッチやセキュリティなどの処理をNIC側にオフロードできるようにした製品だ。これにより、ホストサーバー側のCPUの負荷を削減し、余ったCPUリソースを別のワークロードに振り向けることや物理サーバーの台数を減らすといったことが可能になる。

エヌビディアが現在主力として展開しているSmartNIC「ConnectX-6 Dx」は、内部スイッチング容量が200Gbps、最新の「ConnectX-7」では400Gbpsに対応する。

DPU (Data Processing Unit)は、SmartNICにARMなどのプロセッサーコアを搭載、アクセラレータ機能の強化が図られている。これにより、ソフトウェア定義のインフラに関する管理機能や、セキュリティ、ストレージ機能など、SmartNICより幅広いワークロードをホストサーバーからオフロードさせることができる。

エヌビディアでは200Gbpsの内部スイッチング容量を持ち、8個のARM A72コアとDDR4メモリを搭載するDPU「BLUEFIELD-2」を提供している。2023年3月リリース予定の「BLUEFIELD-3」は前述のConnectX-7を内蔵し、400Gbpsの内部スイッチング容量に対応する。16個のARM A78コアを搭載することで、BLUEFIELD-2の4倍のデータ処理能力を実現するという。

進化するSmartNIC/DPUにより、データセンターの処理効率の向上、高速化、セキュリティの強化などが実現できるというのである。

ワークロードをオフロードさせることでデータセンターの消費電力を削減できることもSmartNIC/DPUの大きな利点だ。

DPUでは、DOCAと呼ばれるSDKを用いて、自由にアプリケーションを開発することが可能だ。すでに多くのソフトウェアベンダーがDOCAを用いて、自社製品とDPUを組み合わせたソリューションを提供している。

このセッションでは、パロアルトネットワークスのサイバーセキュリティ製品やVMwareのインフラストラクチャ製品など、DPU/SmartNICを活用した多彩なソリューションが紹介された。

例えば、パロアルトは仮想次世代ファイアウォール「VM-Series」において、常に検査を必要としないトラフィックをDPUにオフロードすることで、ホスト側で処理するトラフィックを20%に削減、処理速度を5倍に高速化させたという。

仮想化次世代ファイアウォールのトラフィックの8割をDPUにオフロードできる

仮想化次世代ファイアウォールのトラフィックの8割をDPUにオフロードできる

「エヌビディアは、テレコムデータセンターの変革により、通信事業者がAI、5G、IoTの可能性を最大限に実現できるように支援していく」と述べ、野田氏は講演を終えた。

さらに「NVIDIA テレコムウェビナー 2022」では、テレコムビジネスユニット エバンジェリストの野田真氏による「NVIDIA の 6G に向けた取り組み – Sionna とは?」と題したセッションも用意され、AIによるリンクレベルのシミュレーションツールSionnaによる6Gの標準化に向けた取り組みなどが紹介された。

通信事業者がビジネスを展開するうえで、GPU/DPUの活用はすでに不可欠になってきているようだ。

<お問い合わせ先>
エヌビディア合同会社
お問い合わせ窓口:https://nvj-inquiry.jp/

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