<特集>5Gこれからどうなる?「5Gニーズは3年加速した」5GMFアプリ委員長 岩浪剛太氏

「5G時代に起きる変化は、コロナで3年加速した」。5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のアプリケーション委員会委員長として、5G時代の近未来ビジョンづくりをリードしてきたインフォシティの岩浪氏はこう語る。日本が5G時代に飛躍するうえでのポイントは3つ。なかでも日本の「信頼」をベースにした5G前提のデジタル・ガバメントに岩浪氏は期待を寄せる。


――岩浪さんが委員長を務める5GMFアプリケーション委員会は、「5Gがある世界の近未来ビジョンを描くこと」をミッションに活動してきました。5Gの商用サービスが日本でスタートして半年が経過しましたが、岩浪さんの眼には今、5Gの現状はどう映っていますか。

岩浪 エンドユーザーも賢いですから、「まだ5Gはテストのような状態」という認識ではないでしょうか。ただ、ここに来て各キャリアから5Gスマホの発表が相次いでいますし、iPhoneもいよいよ5Gに対応します。5Gスマホの価格も「低価格」とは言えないまでも「中価格」くらいにはなってきました。「やっと今から本番」という感じですよね。

――5Gの重要なショーケースとなるはずだったオリンピックの延期の影響を指摘する声も少なくありません。

岩浪 5GMFは設立から6年が経ちますが、当初から皆さん東京2020オリンピックを目指して活動されてきました。ですから、影響は少なくないと思います。

ただし仮に新型コロナがなく、オリンピックを開催できていたとしても、ユーザーに5Gの良さを本当に実感してもらえる機会になったかというと、微妙なタイミングだった気がしています。日本より先に5Gサービスが始まった海外でも、ユーザーがすでに5Gの良さを実感できているかというと、まだこれからですよね。

――それで心配なのが、5Gを活用した新サービス創出の担い手として期待される、通信業界以外の各産業の5Gへの熱意です。開始前から大きな注目を浴びてきた分、逆に今、5Gへの失望が広がっているということはないですか。

岩浪 現実問題として、5Gの電波はこのオフィス(東京・青山)にもまだ届いていませんし、ローカル5Gにしても現状はまだ基地局などが高すぎますよね。その意味では、5Gはまだ「リアル」になっていないわけで、「がっくりきている」というより、「今はやりようがない」と考えている人が多いのではないでしょうか。

ただ、5G時代に起こる変化については、3年加速したと思っています。長年「5Gでいろいろなことが変わる」と言ってきましたが、2020年にコロナという5Gよりもインパクトのある事態が発生したことで社会が大きく変化しつつあります。

不満はイノベーションの母――コロナによって社会の「リモート化」が一気に進展するなか、「5Gを活用できれば」という期待は確かに高まりました。

岩浪 例えばリモートワーク1つとっても、自宅にブロードバンド回線を引いていない人が意外と多かったり、Web会議の音声が途切れたり、大人数の会議ではカメラをオフにする必要があったり、通信インフラに関しては先進国だと思っていたのに、まだまだ基本的なところで課題があることが分かりましたよね。

こうしたベーシックな問題が解決されたとしても、コミュニケーションにおける情報の欠損はまたまだありそうです。僕の実感としては、動き始めているプロジェクト、つまり1を10にしていくための会議はリモートでも大丈夫ですが、「新しいことをやろう」と、0から1を生み出すような会議はリモートではまだ難しいです。

しかし5G時代には、どこでもVRでの共有といったことも可能になるでしょうし、リアルにはかなわないまでも、情報の欠損が少ない十分なクオリティのコミュニケーションができるようになります。在宅勤務ではなく、本当の「どこでも勤務」がしたいという要望も大きいのではないでしょうか。

不満解消ばかりでは、誰もが思いもよらなかったような新しいアプリケーションは出てきませんが、やはり不満は一番の「イノベーションの母」なのです。

――遠隔医療、遠隔制御など本当に様々な領域で、「なぜこれがリモートでできないのか」といった不満が、ユーザーの実感として出てきていますね。

岩浪 例えば、コンサートやスポーツですよね。大規模ライブイベントのリモート体験という5Gの利用シーンは、ずっと想定してきたわけですが、現在そのニーズが一気に来ました。アプリケーション委員会が描いてきた5Gユースケースへのニーズは3年前倒しで高まっている感じです。

――5Gを活用した、まったく新しいアプリケーションについては、どういう形で登場してくるとお考えですか。

岩浪 よく「スマホの次」ということが言われますが、僕は相変わらずまずはスマホが中核だろうと考えています。

今のこの世界を作ってきたのは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといった人たちですが、彼らの理想を初めて実現したのがスマホでした。大昔にビル・ゲイツが「Information At Your Fingertips」と言っていましたが、この「指先で情報を」をまさしく実現したのがスマホですよね。PCとスマホが決定的に違うのは、サイズも当然ありますが、「常時接続」という点です。

――常時ネットワークにもユーザーである人間ともつながっているのがスマホですね。

岩浪 現在、PCとスマホの出荷台数は1ケタ違います。スマホによって、やっと1人1台Personal Computer時代がやってきました。40年近くかかったわけですが、今や常時接続されたコンピューターで拡張された能力が、人類のデフォルトのスペックとなっています。

他のデバイスはどうなるのか。クアルコムの5Gモジュールを搭載したスタンドアローンのVRヘッドセット「Oculus Quest 2」が発売されますね。Facebookがアプリストアをやりそうな感じですし、スマホ以外の5G端末もいろいろと出てきてほしいと期待しています。

月刊テレコミュニケーション2020年11月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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岩浪剛太(いわなみ・ごうた)氏

1984年株式会社インフォシティ設立、代表取締役に就任。コンピューターソフトウェア・通信・放送関連の分野において様々な技術開発を展開。その他、一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)理事、総務省の情報通信審議会関連および放送・通信関連各種委員会・研究会構成員、早稲田大学非常勤講師などを歴任。2014年に第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)のアプリケーション委員会委員長に就任

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