JA全農が次世代施設園芸「ゆめファーム全農」でNTT東日本と実証実験――農作業者の健康管理・労務管理にIoTを活用

全国農業協同組合連合会(JA全農)とNTT東日本、NTTアグリテクノロジー(NTTアグリ)は、高知県安芸市にある、JA全農が運営する次世代施設園芸「ゆめファーム全農こうち」で、IoTを活用した農作業者の健康管理と労務管理を通じて、農業経営を支援する実証実験を10月1日から開始した。

高温多湿の温室のなかで実証実験の初日、高知県安芸市に車で入ると一帯に温室が立ち並び、それがえんえんと続き、日本でも有数の野菜の巨大産地と実感が湧く。四国山地につながる山を見上げ、反対側には太平洋の波が打ち寄せる丘陵地。その一角に、JA全農が運営する次世代施設園芸「ゆめファーム全農こうち」が立っている。

高さ5m、面積1haの大型温室で、高知県のブランドナス「土佐鷹」の栽培が行われている。いくつものエリアに区切られた地面に、緑の葉と紫の実をいっぱいつけたナスの株が一面に広がる。

高知県安芸市にある次世代施設園芸「ゆめファーム全農こうち」
高知県安芸市にある次世代施設園芸「ゆめファーム全農こうち」

温室内は、この日正午で、温度約31℃、湿度は80%にも及んだ。ナスは温暖を好み、最高温度は晴天時27~29℃で管理するという。30分も居ると汗が止まらなくなってくる。温水のような環境での農作業は身体への負担が相当なものであることが嫌でも分かる。

農作業に従事するのは10~12人。そのうち年齢の異なる2人が腕時計型のウェアラブルデバイスを装着し、作業をしている。ナスの株1つひとつに対し、茎のまきつけ、葉や枝の切り取り、果実の収穫、運搬などの作業にあたる。

農業作業者は腕時計型のウェアラブルデバイスを装着、データを収集する
農業作業者は腕時計型のウェアラブルデバイスを装着、データを収集する

2人の作業中の心拍数のデータが、ウェアラブルデバイスから、温室の遠いところでは120mくらい離れた事務所にあるLPWAの基地局までワイヤレスで送られる。

事務所のパソコンでは、2分おきに収集されるデータが表示されている。データは刻刻、蓄積され、クラウドに上げられる。作業者からのデータが安全の基準値を超えると、アラートが事務所のパソコンと、管理者のスマートフォンに送られる仕組みだ。

事務所に設置のLPWAの基地局装置でウェアラブルデバイスからのデータを受ける
事務所に設置のLPWAの基地局装置でウェアラブルデバイスからのデータを受ける

農作業者の健康管理・労務管理を温室内は天候によって瞬間的に気温が上昇することがある。天窓を開け、気温を下げるが、それでも作業者への負担が大きいことがある。負担軽減のために、作業者は小型の送風装置の付いた上着を着ているが、それでも安全には万全の注意が必要となる。特に、高温期は熱中症リスクが高まるため、体調不良にならないような、健康管理は必須の課題なのだ。

実証実験では、ウェアラブルデバイスによるデータ収集とその可視化を行うことで、身体にかかる負荷を算出し、管理者への注意喚起を行う。管理者はそれに基づいて適切なタイミングで休憩を促すなどの措置を行うという。

また、タブレットで作業内容を正確に記録することで、農作業者の作業箇所・作業時間などの可視化も行い、適正な労務管理を行う仕組みを確立していき、安心安全・効率的な農業経営の実現を目指していきたいという。

次世代農業モデルの確立へプロジェクトリーダーの、JA全農高度施設園芸推進室の吉田征司室長は、次のように、今回のプロジェクトの背景を語る。

「日本では高齢化が進行していますが、農業業界はそれよりもさらに急速に高齢化しています。農林水産省によると、国内の基幹的農業従事者のうち49歳以下はわずか10%です。このままだと、日本の農業は国内の食料を支えることができなくなってしまいます。それを打破するために、全農として、これまでとは異なる新たな農業のやり方を実践しています。それが『ゆめファーム全農』プロジェクトです」

JA全農 高度施設園芸推進室の吉田征司室長
JA全農 高度施設園芸推進室の吉田征司室長

このプロジェクトは、栃木(トマト)、佐賀(キュウリ)で進められており、高知(ナス)は2017年から開始した。

吉田室長は、続ける。

「ゆめファーム全農こうちでは、現状のナス生産者と比較し面積で5倍、反収で2倍を目指しています。従来は家族経営で行う方式が一般的ですが、農業の1つの形として人を雇用してビジネスとして成り立つ次世代施設園芸の実証に取り組んでいます。ですから、どうしてもパートさんの健康管理と労務管理は必要不可欠なのです。そこで、NTT東日本様・NTTアグリ様と相談して、今回のIoTシステムを活用することになりました」

農作業者の健康管理という点では、温室に設置しているセンサーで取得する温度・湿度・日射量をもとに、熱ストレスの評価を行うWBGT値(暑さ指数)を算出する。この値が基準値を超え、ウェアラブルデバイスで取得した心拍数データから暑熱負担が増大していると判断すると、管理者に通知を行う。管理者は適切な声がけや体調の確認、休息を促すなどの行動を行い、農作業者の健康を確保するというフローだ。

労務管理という点では、これは第二ステップの実証実験になるが、ウェアラブルデバイスで取得する位置情報と、労務管理アプリケーションに記録した作業内容の情報を相互に連携させ、農作業者の労働時間や生産性を可視化する予定だ。

さらに、今後、増加が見込まれている外国人技能実習生などとの適切なコミュニケーションを目的に、現在のシステムに加え、多言語翻訳機能やメッセージ機能を搭載していく予定という。

吉田室長は、こう述べる。

「最近、スマート農業という言葉をよく耳にしますが、次世代施設園芸の確立には、IoT/ICTの活用が不可欠です。それによって、施設園芸の高度化、省力化が確実に進むと思います。工場の現場では当たり前に確保されている安全な労働環境を、農業現場においても整備していくための一助となるよう、NTT東日本様・NTTアグリ様との実証実験を進めていきます」

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