ICT×未来

東大発ベンチャーが「IoT未開の地」を開拓

文◎松本一郎(編集部) 2019.02.27

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東京大学の研究室発のスタートアップが次々と「IoT未開の地」を開拓している。同社が「きわめて効率的なパケット転送技術」とうたう無線技術で、従来のマルチホップでは困難だった高品質なセンシングが可能だ。

 
「世界で勝負できる技術がある。一緒にやらないか」――。現ソナスCTOの鈴木誠氏は、研究室の後輩で現ソナスCEOの大原壮太郎氏にこう切り出した。二人での飲み会の終盤、意を決しての発言だった。

鈴木氏は当時、東京大学の森川博之教授の研究室に所属し、センサーネットワークの研究をしていた。一方、大原氏は起業のためソニーを退社したものの、一度目のチャレンジは失敗。鈴木氏の誘いは「渡りに船」だった。両氏はすぐに意気投合し、起業に向けた準備を始めた。

両氏が「世界で勝負できる」と踏み、その後「UNISONet(ユニゾネット)」と名付けた技術は、マルチホップ無線通信の一種である。通常のマルチホップ通信とは異なり、「同時送信フラッディング」により、ルーティングレスな点に大きな特徴がある。

(右から)ソナスCTOの鈴木誠氏、同CEOの大原壮太郎氏、共同創業者の神野響一氏
(右から)ソナスCTOの鈴木誠氏、同CEOの大原壮太郎氏、共同創業者の神野響一氏


同時送信フラッディングとは?UNISONetでは、接続している全ノードにパケットを送信し、パケットを受け取った全ノードが即座に転送していくことで、目的地までルーティングレスでパケットを届ける。経路を制御することなく、“洪水(flooding)”のように全ノードにパケットを同時送信していくから、同時送信フラッディングと呼ぶわけだ。

「ZigBeeでマルチホップ無線に取り組んだが、いくら頑張ってもデータが欠落する問題を解決できなかったという方は多い。現在もロスレスデータ収集、省電力、時刻同期など、IoTの様々な要件を同時に満たせるマルチホップ用のルーティングプロトコルは登場していない」と鈴木氏はルーティング型の課題を指摘する。

ただ常識的に考えれば、同時送信フラッディングには重大な欠陥がある。複数ノードに同一のパケットを同一時刻に送信すれば、干渉が大きな問題となるはずだ。

ところが2011年、海外の研究者がブレークスルーをもたらした。「複数ノードが同一パケットを同一タイミングで送信する際、適切な変調方式を用いることで、致命的な干渉が発生しない」という現象を明らかにしたのだ。UNISONetは、この現象を応用することで、ルーティングレスのマルチホップを実現した(図表1)。

 

図表1 UNISONet(同時送信フラッティング+細粒度スケジュール)
図表1 UNISONet(同時送信フラッティング+細粒度スケジュール)


UNISONetは、すべての経路を使ってパケットを目的地に届けるため、堅牢性の高いネットワークを構築可能だ。周波数については2.4GHz帯を利用しており、1ホップ当たりの通信距離は500m。最大10ホップに対応する。また、スループットは2KB/sで、「数年バッテリーが持続するマルチホップ系プロトコルとしては高速な方だ。」と鈴木氏は述べる。時刻同期にも対応しており、省電力性もルーティング方式以上であるという。今後、サブGHz帯向けも提供する計画だ。

UNISONetのもう1つの特徴としては、ネットワーク内で司令塔の役割を果たすシンクノードが「細粒度スケジュール」を行い、省電力などの効率化を実現している点もある。

まずは1スロットを50ミリ秒と定義。シンクノードが1秒に数回という細かい粒度で、「どのスロットで、どのノードが送信するか」を定義した「スケジューリングパケット」を生成して配布する。

これにより、「画像を送り終わったら各ノードは即座にスリープする」といった制御が緻密に可能になり、省電力・低遅延を可能にする。

UNISONetのユーザーからは、質の高いデータを取得できる点が喜ばれているという。

「例えば、Sigfoxの場合、各モジュールに電池を入れ、その入れたタイミングから1時間に1度バラバラにセンシングするといった運用になる。UNISONetなら複数拠点で同時刻にセンシング可能だ。データが欠落時はシンクノードが再送要求もするため、有線並みの品質でデータが取れる」と共同創業者の神野響一氏は語る。

UNISONetの導入事例の1つに、三井住友建設と共同で行っている長崎県軍艦島の「30号棟」のヘルスモニタリングがある。30号棟は1916年に建てられた日本最古の鉄筋コンクリート製の建造物で、いつ倒壊してもおかしくない状態。貴重な現象を正確に記録するため、多地点で同時に、ロスなくデータを取得できるUNISONetが採用されたという。
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