ISDN&PHSの移行戦略「DX実現の好機にせよ!」

2020年以降、ISDNとPHSが相次いでサービスを終了する。その影響は小さくないが、マイグレーションするだけではもったいない。デジタルトランスフォーメーションを推進する好機ともなりうるからだ。

固定電話のIP網への移行に伴い、NTT東日本/西日本(以下、NTT東西)が提供するISDNの「INSネットディジタル通信モード」が2024年1月に終了する(図表1)。

図表1 ISDNマイグレーションのロードマップ
図表1 ISDNマイグレーションのロードマップ

ADSLや光回線への移行が進むコンシューマー市場ではすでに過去の遺産となっているISDNだが、「カバーエリアの広さ」「帯域保証型」「低コスト」「開通期間の短さ」から、法人市場では今も現役として活躍している。金融や商取引など企業間の重要データのやり取りに使っている業種もあり、サービス終了の影響は決して小さくない。

モバイルでは、現在ソフトバンクグループだけが提供しているPHSが、テレメタリングプランを除いたすべてのサービスを2020年7月末に終了する。

「低コスト」「低消費電力」「導入の容易さ」といった特徴を持つPHSは、モノとモノの通信がM2Mと呼ばれていた時代から遠隔監視などに使われており、法人市場におけるシェアは今なお高い。

ISDNやPHSを活用している企業は、このマイグレーションにどのように対応すべきなのか。ここからは代替策も含め、企業の取るべき戦略を考えてみたい。

ISDNの移行戦略NTT東によると、INSネットの回線数は約220万回線となっており、その9割の約197万回線(約44万ユーザー)が法人ユーザーだ。これまで約74万回線の法人ユーザーに対し個別訪問等によるINSネット ディジタル通信モードの終了に関する説明を行っており、利用が確認できた場合には代替案を提案している。

INSネット ディジタル通信モードの主な用途には、POS(販売情報管理システム)、CAT(信用照会端末)、企業のEB(電子バンキング)、EDI(電子商取引)、銀行ATMなどがある。なかでもPOSやCAT、EDIはINSネットの利用が多い分野だ。

いずれも重要データを取り扱うため、安定した通信が行える光回線への移行をNTT東では推奨している。

POSを例に取ると、センターと店舗間をINSネットの代わりに、インターネットを経由して「フレッツ光」で接続する。端末もインターネット対応のものに替えることで対応する(図表2)。

図表2 ディジタル通信モードの主な利用用途と移行事例[画像をクリックで拡大]
図表2 ディジタル通信モードの主な利用用途と移行事例

NTT東 ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当 担当課長の山内健雅氏は「業界ごとに推奨されている方式を我々も把握しながらご提案するようにしている」と話す。ディジタル通信モードの終了によって企業が影響を受けるかどうかをまず検討し、影響を受ける場合には、原則として業界の標準方式に沿った移行を提案している。

例えば、給与の振込や決済に使われる企業のEB(電子バンキング)の場合、全国銀行協会では「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」を制定し、広域IP網の使用を推奨している。また、警備端末とセンターをつなぐネットワークについては、警備会社のシステムと相手方の接続方法が多岐にわたることから、警備会社ごとの代替策を取る。

このように、業種ごとに適した代替策が異なるため、NTT東では業界団体と連携しながら対応する方針だ。

NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当 担当課長の山内健雅氏
NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門
ネットワークサービス担当 担当課長の山内健雅氏

一方、業種に関係なく企業ごとに独自の代替策を取ることができるのが、企業内WANとしての用途だ。フレッツ光以外にも、イーサネットなどの専用線が選択肢となっている。バックアップ回線として使われている場合には、無線に移行する企業もあるという。

また、ラジオ放送の屋外中継のように、光回線の敷設が難しい場所では、NTT東西としても敷設可能となるよう工夫検討を行ったり、他の用途では無線と光を併用することになる。

ただ、全体として見ると、INSネットから無線に移行するケースはまだ少ない。ディジタル通信モードの終了を前に、各社から無線を活用した様々な移行ソリューションが提供されているが、「これまでがINSネットだったこともあり、引き続き固定回線を使いたいと考えるお客様が多い」(山内氏)。多少コストがかかっても、安定した接続を重視する目的から、無線ではなく固定回線を選ぶ傾向にあるという。

ネットワークの見直しでコスト削減INSネットのマイグレーションが必要な企業にとっては、代替策の選定以外にも、いくつかの課題がある。

まず、移行に伴い、切り替え費用が発生することだ。中小企業など設備投資に余裕のない企業では移行の足かせとなりかねない。とはいえ、企業を個別に訪問してみると、INSネットの導入時とはIT管理者がすでに代わり、INSネットが使われないまま放置されているといったこともあり、ネットワーク構成を見直し、コスト削減につながる事例もあるという。

また、法人は取引先などと通信を行うため相手方と仕様を揃える必要があり、拠点単独での判断・移行が難しい。業界団体が推奨する方式に従う企業が多いのは、他社と足並みを揃える目的もあるようだ。

企業のシステムは一定期間ごとに更改の時期を迎える。ネットワークだけを新しくするのではなく、システム更改のタイミングに合わせてシステム全体を新しくすることで、「企業は、INSネットからの移行を自社のデジタルトランスフォーメーション実現のきっかけにしてほしい。我々もそのためのお手伝いをしたい」と山内氏は語る。

月刊テレコミュニケーション2018年7月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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