NICTが開発中の次期5G NR「聖徳太子ワイヤレス」とは?

「次期5G NR」での採用を目指し、NICTが新しい無線アクセス方式の開発を進めている。5Gの特徴である「大量接続」と「低遅延」の両立を可能にする技術だ。

1平方km当たり100万台を超える大量のデバイスを効率的にネットワークに収容するには、一体どんな技術を用いればいいのか――。センサーネットワークなどを対象とする「mMTC(大量マシン通信)」を5Gで実現するための技術の検討が、3GPPで本格化してきた。

3GPPでは2020年までに5Gを商用化するため、①「eMBB(超高速大容量通信)」、②「URLLC(超低遅延高信頼通信)」、③mMTCの5Gの3要件のうち、eMBB(およびURLLCの一部)の規格策定を前倒しした。これに伴い中断していたmMTCの検討が、昨年末にeMBBの無線仕様となる「5G NR(New Radio)初版」が固まったことで、再始動したのだ。

2022年頃に商用化される「次期5G NR」の策定に向けたmMTCの技術検討において、中心テーマとなっているのは、端末から基地局方向の「上り」の無線アクセスにどのような技術を用いるかである。

現行の4G/LTEはモバイルブロードバンドのニーズに応えるため、「下り」を重視して開発されている。膨大な数のデバイスから大量の上りトラフィックが発生するmMTCに対応するには、4G/LTEとは発想を異にする新技術が必要となる。

mMTC向けの上り無線アクセス方式については、すでに海外の通信ベンダーなどから、いくつかの提案がされている。そうしたなか今年5月、日本の情報報通信研究機構(NICT)も3GPPに対して内部で「聖徳太子ワイヤレス」と呼ばれている新技術を提案した。日本発の技術が、mMTCを支える可能性が出てきたのである。

ここではNICTが開発を進めているこの新たな上り無線アクセス方式を軸に、どのような技術でmMTCが実現されるのかを見ていく。

図表1 NICTが開発中のmMTC/URLLC向け無線方式
図表1 NICTが開発中のmMTC/URLLC向け無線方式

2万端末の同時接続を確認mMTCの上り無線アクセス方式では、4G/LTEと比べて、2つの点で大幅な能力の向上が求められる。その1つが同時に基地局に接続できる端末数の拡大だ。

4G/LTEをはじめとするモバイル通信では、通信を行う前に端末と基地局の間でネゴシエーションを行い、利用する周波数の領域やタイムスロットを予約(Grant)することで効率的なデータ伝送を実現している。

しかし、膨大な数の端末が数十バイト程度のごく少量のデータを送信するmMTCにこの方式を用いると、無線リソースの相当部分がネゴシエーションに費やされるため通信ができなくなってしまう。mMTCを実現するためには、よりシンプルなアクセス制御技術が必要となるのだ。

この問題の解決策として3GPPで検討されている有力技術に「グラントフリー(Grant Free)」がある。

ネゴシエーションは行わず、タイムスロットの区切りに合っていれば、デバイスが好きなタイミングでデータを送出できるという極めてシンプルなアクセス制御技術だ。

この手法では、2個以上のデバイスが同じタイミング、同じ周波数で送信を行ってデータが失われる可能性があるが、同一のデータを複数回繰り返し送信することなどによって、データの到達確率を実用レベルに高める。

まれにデータが届かないこともあるが、それでも構わない用途で利用する、必要なら上位層での再送制御に委ねることを前提とした「割り切った」技術だ。NICTが開発中の「聖徳太子ワイヤレス」でも、このGrant Freeの利用を想定している。

では、Grant Freeを用いることで、どの程度の効果が期待できるのか。NICTは昨年度に総務省が実施した5G総合実証試験の一環としてGrant Freeの能力検証を行った。この検証では、1つの基地局に2万台の端末を接続しても、通信できることを確認できたという。なお、搬送波は10MHz幅だ。検証には3GPPに提案されている上り無線アクセス方式の1つで、Grant Freeを採用するMUSA(Multi-User Shared Access)」をベースに開発した実験装置を使った。

担当したNICT ワイヤレスシステム研究室 研究マネージャーの石津健太郎氏は、「2万台の端末を実際に用意してデータ送信するのは現実的ではない。そのためシミュレーターで2万台分の信号を模擬的に発生させ、そのなかで実験端末のデータがサーバーに届くかを検証した」と検証方法を説明する。

NICT ワイヤレスネットワーク総合研究センター ワイヤレスシステム研究室 研究マネージャー 石津健太郎氏
NICT ワイヤレスネットワーク総合研究センター ワイヤレスシステム研究室
研究マネージャー 石津健太郎氏

Grant Freeには「接続」という概念はないが、「今回は5秒間隔でデータをサーバーに送信し、10秒以内に受信できた場合に『接続した』と見なした」という。

LTEの実験装置でも併せて同じ10MHz幅の搬送波で検証を行ったが、100台を超えると接続できなくなるケースもあったそうだ。

センサーネットワーク向けの技術としてはGrant Freeは相当の実力を有していると言えるだろう。

「実用化されれば、災害時など輻輳が生じるような状況でも最低限の通信が維持できる」と石津氏は語る。

月刊テレコミュニケーション2018年7月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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