携帯4社の次世代インフラ戦略を読み解く[第12回]イー・モバイルの次世代インフラ戦略(前編)――「LTE」ではなく「DC-HSDPA」を選んだ理由

イー・モバイルは、最大42MbpsのDC-HSDPAサービスをこの10月から開始する予定だ。なぜイー・モバイルはLTEではなくDC-HSDPAを当面の次世代システムとして選択したのか――今回はまず、その理由を解説する。

2007年3月の開業以来、HSPAによるモバイルデータ通信サービスを主力として展開してきたイー・モバイルの事業構造は、音声通信の比重が高い他の携帯電話事業者とはかなり異なるものとなっている。

ノートPCなど向けのモバイルデータ通信サービスは、トラフィック当たりの収益性が低く、既存の携帯電話事業者には取り組みにくい分野だ。そのため本格的な競合相手というと、現状ではBWA事業者のUQコミュニケーションズ、大容量インフラを背景に携帯電話事業者では唯一この分野に本腰を入れるNTTドコモに絞られる。

これらライバルの直近の動きを見てみると、UQコムが下り最大40MbpsのWiMAXサービスの提供地域を今年に入って県庁所在地級都市に拡大、ドコモは2010年12月からLTEによる下り最大37.5Mbps(基地局ベースでは43Mbps)のサービスを東名阪の一部地域で開始する。モバイルデータ通信市場は「モバイルブロードバンド」インフラによる新たな競争フェーズに突入しており、イー・モバイルは喫緊の対応を迫られているのだ。

“必然”だったDC-HSDPAの選択

こうした現在の競争環境への対応策として、イー・モバイルはHSPAの発展システムの最新版であるDC-HSDPAを導入、2010年10月から下り最大42Mbpsのサービスの提供を計画しているのである。

7月6日に開かれた記者説明会で、42Mbpsサービスについて説明するエリック・ガン社長
7月6日に開かれた記者説明会で、42Mbpsサービスについて説明するエリック・ガン社長

ところで、イー・モバイルには、ドコモと同じLTEという選択もあったはずだ。2×2MIMOを実装した場合、LTEはDC-HSDPAの半分の5MHz幅で、同等の最大通信速度を実現できる。周波数利用効率はLTEのほうが格段に高い。DC-HSDPAと同じ10MHz幅で運用した場合の最大通信速度は下り86Mbps(端末ベースでは75Mbps)となる。将来のデータトラフィックの伸びを考えれば、魅力的な選択肢であり、実際、同社は2008年12月から半年間にわたって東京都心で実証実験を行うなど、LTEの商用化にも意欲を見せてきた。

にもかかわらず、イー・モバイルが当面のシステムとしてDC-HSDPAを採用したのは、大きく次の2つの理由からだと考えられる。

続きのページは、会員の方のみ閲覧していただけます。

RELATED ARTICLE関連記事

SPECIAL TOPICスペシャルトピック

スペシャルトピック一覧

FEATURE特集

NEW ARTICLES新着記事

記事一覧

WHITE PAPERホワイトペーパー

ホワイトペーパー一覧
×
無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。