鉄道・道路、上下水道など日本の社会インフラの大半は、高度経済成長期に集中的に整備された。その多くが2020年代に建設後50年を経過する。老朽化対策はまさに喫緊の課題だ。
中でも危機的な状況にあるのが、水道管の老朽化だ。法定耐用年数が40年と比較的短く、しかも地中に埋設されているため、劣化具合もほとんど把握できていないのが現状だ。
水道管の国内総延長距離は約66万キロ。そのうち8万キロが法定耐用年数をすでに経過している。
日本水道協会によれば、水道管のトラブルは年間2万件。また、無収水率(漏水その他の要因で失われる水の割合)は全国平均で10%程度と言われる。せっかくきれいな水を作っても、家庭に届くまでに無視できない量が実は地中で失われているのだ。老朽化がさらに進行すれば、いつでもおいしい水が飲める生活が脅かされていく。
問題はそれだけではない。
水道管が破損すれば、他の施設にも大きな被害を及ぼす。2011年には京都市で、漏水で噴き出した水がガス管を破損し、約1万5000戸へのガス供給が停止する事故が発生した。京都市から大阪ガスへの賠償額は約10億円にものぼっている。
道路冠水や陥没を引き起こす漏水事故も後を絶たない。最近でも、昨年12月に福岡県久留米市の市道が陥没し、軽乗用車が穴に落ちた。1月にも石川県金沢市で道路冠水、山形県鶴岡市で道路陥没が発生している。
水道管が破損し噴き出した水によって、管の周辺が空洞化するほど土砂がえぐられている。右は復旧工事の様子 |
更新完了は100年後?老朽化対策の決定打はもちろん水道管の交換だが、驚くほど進んでいない。更新ペースは年間で1%にも満たない。このペースが続けば、全国の管路をすべて更新するには100年以上かかる。
更新が進まない理由は単純だ。カネも人も時間も足りない。
埋設管を交換するには莫大な費用がかかり、人口減で水道料金収入が低下している今、交換するには料金値上げしかないのが現状だ。なお、幹線道路下に埋まっているケースが多いため工事は夜間に限定される。
現実的には、劣化・破損箇所を修理して延命化することが最優先となるが、こちらも目に見えないだけに非常に難しい。地面を掘り返さずに破損を調査するには高度な技術が必要で、調査員の数も足りないからだ。
そもそも、埋設管の定期調査自体を行っていない自治体が多く、裕福な自治体を除けば、「地表に水が出ている」「蛇口から水が出ない」などの住民の通報を受けてから原因を調査するケースがほとんどだという。
こうした状況を変えようと、IoTを活用した漏水監視サービスを提供し、実績を上げているのがNECだ。センサーを使って水道管の振動を計測し、そのデータを解析して漏水を検知する。センサーは、水道管と直結していて、かつ地表からアクセスできる仕切弁や消火栓等に容易に取り付けられ、データも無線通信で取得・収集できるのが特徴だ。
そのデータをクラウドで解析し、漏水の有無だけでなく破損箇所もピンポイントで特定する。パブリックSC統括本部・第三事業推進部シニアエキスパートの高橋正三氏は「この仕組みを使えば、漏水調査が誰でも負担なくできる」と話す。
NEC パブリックSC統括本部 第三事業推進部 シニアエキスパート 高橋正三氏