NRIが2021年までのICT・メディア市場を予測――通信事業者は三者三様の特徴

野村総合研究所(NRI)は2015年11月25日、「『ITナビゲーター2016年版』これからICT・メディア市場で何が起こるのか ~2021年までの市場トレンドを予測~」をテーマに第230回NRIメディアフォーラムを開催した。

NRIのコンサルタントがICT・メディア市場全体の動向とともにデバイス市場、ネットワーク市場、プラットフォーム市場、コンテンツ配信市場、ソリューション市場が今度どのように推移していくかの予測を提示したが、今回はICT・メディア市場全体の動向とネットワーク市場、ソリューション市場を紹介する。

ICT市場はネットとリアルが融合する新しい時代へまず、ICT・メディア市場全体について、主席コンサルタントの桑津浩太郎氏は大きく3つの動きがあると説明した。

コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティ
ング部 部長・主席コンサルタントの桑津浩太郎氏

1つめの動きは、これまでICT市場は成長傾向にあり普及率がベースに話されてきたが、今は普及率が上限に達しつつあることから、新しい使い方を模索するといった“ICTの利用”に注目が集まっていること。そして、その利用も単純なものではなく、「ネットとリアルが融け合う新しい時代。ICTリソースの“民主化”により、大企業だけでなく個人やベンチャー企業が多様なビジネスを展開したり経験を提供できる段階にきている」とした。

ネットを通じて、リアルでの体験をより充実したものにするサービスも登場している。例えば、米ベンチャーのインターネット配車サービス「Uber」が有名だが、「乗りたいときに、乗りたい場所でタクシーに乗る」といった便利な体験を提供できるようになりつつあるという。

ICTリソースの「民主化」により、個人やベンチャーがICTビジネスを提供できるようになってきた

2つめは、テクノロジー主導のビジネス創出が活発化していること。「『人工知能』『B2Bロボット』『FinTech』『IT×スポーツ』『AgTech(農業技術)』などは、テクノロジーの出現・実用化により新しい姿を見せるようになってきている」

個人の所有物やスキルなどのリソースを他の人と共有する「シェアリングエコノミー」もテクノロジー主導のビジネスの1つで、これまでにない仕組みをもつICTサービスといえる。前述のUberの例もそれにあてはまるだろうが、「ただICTを利用するのではなく、ICTそのものが人の消費傾向や生活スタイルを変えていくようになる」。

3つめは、より安心・安全・便利なICT活用にも注視する必要があるということ。2015年5月に改正案が可決された個人情報保護法で新たに登場した概念「匿名加工情報」は、個人を特定できないように個人情報を加工するもので、これによりデータビジネスの活発化が見込まれるそうだ。しかし、それと同時にプライバシーの重要性はさらに高まると考えている。

ネットワーク市場はFVNOやMVNOで活性化ネットワーク市場については、上席コンサルタントの阿波村聡氏が説明した。市場は成熟しているが、光回線卸やMVNOの活性化など政府による競争政策の影響を受け、ここ1~2年は流動性が出てきているという。

コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティ
ング部 上級コンサルタントの阿波村聡氏

固定ブロードバンド回線市場は、NTTの光コラボレーションモデルで多様なサプライヤーが参加していることにより、ボリュームは多くないが僅かながらも成長を続けると見込んでいる。携帯電話・PHSのモバイル回線市場は、M2M/IoT用途で成長するがARPUは減少すると見ており、市場規模の金額としてはほぼ横ばいと予測している。

通信事業者は各社が成長に向けた模索を続けているが、NTTグループ、KDDI、ソフトバンクのそれぞれを比較すると、三者三様の特徴が出てきていると分析する。

「NTTは他社とどのように協業するか」を打ち出しており、NTT東日本・西日本は光コラボレーション、NTTドコモは「+d」などで他社に自らのインフラ基盤を提供している。それに対して、KDDIは従来から固定回線とモバイル回線のバンドルが強かったこともあり、「最近は電力やau WALLET、ECサイトなどの強化を図り、家の中のいろんなサービスを囲い込もうとしている」。ソフトバンクは、「いろいろなことを手掛けるのがDNA。海外や電力とのバンドルで国内の顧客の囲い込みを狙っている。そしてAIやロボットへの投資も見逃せない」という。

2021年度には携帯電話市場の約13%にあたる2150万回線がMVNOになると見ている

MVNO市場は、「急激に伸びてきた。今後も成長すると考えられるが、どの事業者も料金の安さで勝負するレッドオーシャンになっている」。これからは低価格路線では成長は見込めず、例えばトーンモバイルの「TONE」ではTSUTAYA実店舗と連携して毎月1枚の無料レンタルサービスを楽しめたり、Tポイント10倍キャンペーンがあるが、そのように「自分たちのサービスをバンドルして提供していく、ニッチでもいいからそういった事業者が増えていけば、MVNOは伸びるだろう」と述べる。

M2M/IoTの発展で鍵を握るのはネットワーク技術NRIの言うソリューション市場には、企業向けの情報システムのサービスというくくりの中で、法人ネットワーク、クラウドサービス、データセンターのほか、M2M/IoT市場と情報セキュリティ市場が含まれている。

コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティ
ング部 上級コンサルタントの木下貴史氏

上級コンサルタントの木下貴史氏によれば、ソリューション市場の構造変化としては、これまで高度なネットワークを利用したコンピューターシステムが長年続いてきたが、最近はクラウドなどの上位レイヤーのサービスに価値が見出されてきているのがポイントだという。

「法人ネットワークは専用回線からIP回線を利用した安価なネットワークへのシフトにより価格は下落し、市場規模は縮小している」。他方、システムを素早く構築して動かせるような仮想化基盤やAWSに代表されるような外部クラウドを利用する動きがここ1~2年で増えてきており、クラウドサービスは堅調に推移すると見込む。

企業向け情報システムの中では、M2M/IoTが成長エンジンになると見込まれる

「箱ものマーケット」であるデータセンターは、「大量にデータが生み出される社会へと移行しているなかで、コンピューターを収めるための箱から今後はデータを収めるための箱になり、データの保存・活用といった用途で提供面積が広がることでデータセンター市場も拡大すると考えている」という。

また、情報セキュリティはセキュリティ機器やソフトウェアツールが中核だった時代から、ナレッジやノウハウを提供していくマネージドサービスなどがこれから普及していくと見ている。

最後に、M2M/IoT市場は最も成長率が高く、2014年度の約3300億円から2021年度には9000億円を超えると予測しているが、「これからの発展において鍵を握るのはネットワーク技術。機械をどれだけ多くネットワークに繋げるのかというコネクティビティが重要になる。そして、少ないデータからでも状態を十分に把握できるデータ分析が出てくる。話題が高まっている人工知能などは、こういう観点でも重要性を増すだろう」と述べた。

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