基地局を介さずケータイ同士が直接通信――3GPPで標準化が進む「D2D」とは?

基地局を介さずに、携帯電話同士が直接通信を行うD2D(Device to Device)の標準化が進んでいる。SNSやローカル広告、M2Mなどでの利用が想定されている。

携帯電話同士が基地局を介さないで直接通信を行うD2D(Device to Device)と呼ばれる技術が、3GPPリリース12で標準化される見通しになった。早ければ2015年頃に、この機能を実装した端末が登場する。

移動通信技術の標準化団体3GPPは、昨年策定されたリリース10からLTEの発展システムであるLTE-Advancedの標準化を行っており、現在はその拡張仕様の策定がリリース11として年内を目標に進められている。今年6月、3GPPはその次のリリース12で標準化する内容を検討するワークショップを開催、その中で新たにD2Dが標準化されることが固まった。

端末間の直接通信を実現する技術には無線LANを活用するWi-Fi Directなどがあるが、リリース12で標準化されるのは携帯電話システムでこれを実現するもの。無線伝送技術には、中国で商用化が進められ、日本でもすでにソフトバンク系のWCP(Wireless City Planning)が互換システムを商用化しているTD-LTEと同様のTDDのOFDMが使われる。このシステムは携帯電話用の周波数帯域で運用されることが想定されており、出力も携帯電話と同等とすることで、最大で1km程度離れた端末同士でも通信が可能になる。

この標準化を牽引しているのが、携帯電話向け半導体トップの米クアルコムだ。同社は「FlashLinq」の名称でD2Dの開発を進めており、2011年の「Mobile World Congress」では、デモンストレーションを実施した。

クアルコムの日本法人で、標準化担当部長を務める北添正人氏は「当初は3GPPリリース11での標準化を目指していたが、理解が広がらなかった。今回のワークショップでは多くの賛同を得ており、標準化されることが確実になっている」という。

災害時の非常通信にも

D2Dの用途だが、FlashLinqでは(1)SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの端末間のデータ通信、(2)地域に応じた携帯端末への広告配信、(3)M2Mでの利用などが想定されている。遅延が20msと少ないため対戦ゲームなどにも適しているとされる。VoIPの実装により端末をトランシーバーのように使える可能性もある。

北添氏は「米国政府は、災害などで通信インフラが途絶した際の通信手段として関心を持っている」という。

図表 D2D通信のイメージ
図表 D2D通信のイメージ

ここにきてD2Dの実用化が動き出したのは、(1)機能の提供を新たな収益源にできる、(2)端末間の直接通信で基地局の混雑を回避できるなどの利点が、通信キャリアに評価されてきたためだ。他方、通信キャリアの間には、このサービスへの抵抗感も根強いという。

例えば、FlashLinqには、自ら通信可能な端末を見つけ出し、独立的に運用できる仕組みがあるが、こうしたシステムでは通信キャリアがサービスを管理することが難しくなることが懸念される。そこでワークショップでは、ネットワークアシスト方式と呼ばれる技術が提案されている。

移動通信インフラトップのエリクソンの日本法人でCTOを務める藤岡雅宣氏によると、これは「デバイスの発見や同期、通信モードの選択、電力制御、セキュリティなどの機能を基地局で提供するもの」で、通信キャリアによる管理や課金が容易になる利点があるという。

こうした仕組みが導入されれば通信キャリアにも受け入れやすくなる。他方、基地局への依存度が高くなり過ぎればユーザーにとっての利点が薄れてしまう懸念もある。端末と基地局の役割分担をどうするかが、標準化の大きなテーマになりそうだ。

月刊テレコミュニケーション2012年10月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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