「職場の第一線と本社、経営とが分断されている。そこに従来と別にもう1つのレポートラインをつくりたい。同時に、現場の社員が本社や経営に発信したり、社員同士がノウハウを交換したり希薄になっている人間関係を濃くするために、mixiのようなシステムを使ってみたらどうだろう」
損害保険ジャパン(損保ジャパン)の佐藤正敏社長が経営企画部にこう提示したのは2006年のこと。以来、損保ジャパン版mixiといえる「社員いきいきコミュニティ」は現場の思いをトップへ伝えるコミュニケーションツールとして大きな役割を担っている。また、社員同士の絆を強め、社員がもつ業務上のノウハウを共有することに大きな効果を発揮している。
損保ジャパンの「社員いきいきコミュニティ」の画面 [クリックで拡大] |
mixiはSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の代表的存在だ。社内SNSは、利用者を社員に限定した企業版mixiといえる。社内SNSは、ビジネスSNSの一種。ビジネスSNSには社内SNSのほかに、人や商品をマッチングさせることやマーケティングにSNSを活用するケースもある(図表)。企業が社内SNSを導入する目的は、(1)社員同士がつながる場をつくること、(2)社員がもつ知識やノウハウの共有を促進すること、(3)ボトムアップの情報の流れをつくることだ。
図表 ビジネスSNSの種類 |
その背景には、企業の組織と風土に対する経営者と社員それぞれが抱く危機意識がある。企業では、業務の効率化が進んでいる。その結果、社員は他の部門の社員に目を配る余裕がなくなり、フロアが違えば他の部門がどんな仕事をしているのかわからないという状況が生じている。同じ会社で働いているという一体感が薄れることは社員の働きがいに影響する。経営者にとっても、それは大きな問題だ。環境変化に合わせて経営の舵を大きく変えたいと思っても社員の意識がバラバラでは俊敏に動くことが難しい。経営サイドにとって、社員が柔軟に意思の疎通ができ、一体感を感じられるようにすることが経営上、重要なテーマとして浮上しているのである。
損保ジャパンやNTTデータなどに社内SNSの納入実績をもつビートコミュニケーションの村井亮社長は、「社内SNSは企業の神経回路。社内SNSを導入することによって、バラバラな社員の自由意思を集結させることができる」と述べる。社内SNSに対する企業の期待は高い。実際、NEC市場開発推進本部マネージャーの柿澤幸宏氏は、「少し前は企業はSNSで何ができるのか、勉強する段階にいたが現在は導入を検討する流れに入っており、社内SNSの商談案件は増えている」と語る。
社内SNSの基本機能は、日記とコミュニティ、Q&Aだ。社内SNSという場で、社員は互いに日記を読んで他の社員の人となりを知り、コミュニティで所属を超えたコミュニケーションを交わしたり、Q&A機能を活用して業務上のノウハウを共有し合うことが行われている。また、直属の上司を超えてさらに高い階層の幹部や経営者へメッセージを伝えるといったことにも利用されている。それによって、ゆるやかにかつ自発的に社員同士の絆が広がる。他のコミュニケーションツールと決定的に異なるのは、その自発性とゆるやかさだ。その特徴を生かせると、社内SNSは、経営者や社員が直面している課題を解決する格好の道具となる。
経営トップの理解が導入後押し
損保ジャパンが社内SNSを導入したきっかけは、06年に「風通しのよい企業風土となる仕組みづくり」を柱の1つとする新中期経営計画が策定されたことだ。同社で「社員いきいき推進」と呼ばれるこの風土改革の取り組みは、ビジネスの第一線-本社-経営層の間に闊達なコミュニケーションをもたらすこと、そして社員同士のつながりを密接にすることを目的としている。