プライベートLTE「sXGP」の可能性 構内PHSの置き換えを超えて

1.9GHz帯を用いるプライベートLTE規格「sXGP」への注目が高まっている。高品質な音声通話に加え、映像伝送も実用的になった。内線通話手段を超え、業務のDXやBCP対策にも広がる可能性を紐解く。

2023年5月26日、「ワイヤレスジャパン2023×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2023」の特別講演「5G/LTEのプライベート網に未来はあるか?(5G/LTEを使ったプライベート網とWiFiシステムの比較検討)」の冒頭、会場に詰めかけた聴衆に向けて、XGPフォーラム 最高技術顧問の近義起氏はユーモアを交えながら、こう述べた。

XGPフォーラム 最高技術顧問 近義起氏

XGPフォーラム 最高技術顧問 近義起氏

「ここに持ってきたのは、BBバックボーンが販売しているsXGPのネットワークキット。箱から出して電源を入れて、10分もあれば使えるようになるので、インターネットを繋いでZoomのデモをしてもらおうと思います。種も仕掛けもございます」

実際、準備開始から8分程度でネットワークが確立し、東京ビッグサイトの展示ホール内を歩行しながら、講演会場のPCとZoomでビデオ通話する様子がスクリーンに映写された。「会場内でsXGPの動体展示を2箇所で行っているが、周波数は自動調整されるので棲み分けたままネットワークが作れる」(近氏)と、sXGPの設置・運用の簡便さをアピールした。

“安定・信頼”のsXGP

sXGPとは、免許不要のプライベートLTE規格(TD-LTE方式)だ。1.9GHz帯のうち1893.5MHz~1906.1MHzが免許不要の「デジタルコードレス電話の無線局」として、自営PHS、DECTとsXGPに割り当てられている。自営PHSとDECT/sXGPは同じ制御チャンネルを使用していないかをPHSのキャリアセンスによって確認し棲み分ける。DECTとsXGPはともに時分割方式を採用しており、電波の送出タイミングを分けることで周波数を共用している。このような仕組みにより、Wi-Fiのような電波干渉の恐れが少ない。

アクセスポイント間の連携を基本的に行わないWi-Fiはハンドオーバーに弱く、接続するアクセスポイントを切り替える際に通信が途切れることがある。一方sXGPは、基地局が連携してハンドオーバー処理を制御する。これにより、移動しながらでも通信が途切れることがなく、業務ユースでの快適、確実な通話に寄与する。

sXGPは医療機関や鉄道施設などでの自営PHSの置き換えとしてのニーズが多いが、Band39に対応したスマートフォンが使えるため、通話に加えてチャットや業務アプリの利用も可能だ。実際の使用では端末にSIMを挿入し認証を行う。ID/パスワード方式のWi-Fiと異なり、なりすましは不可能だ。対応スマートフォンはAndroidの数機種に限られていたが、iPhone/iPadがiOS16.4から利用可能になった(サービスによって端末の対応可否は異なる)。また、最近はeSIM対応サービスも登場し利便性が向上している。

2023年3月末の公衆PHSのサービス終了に伴い、割り当ての帯域幅が増加。これまでの5MHz幅が10MHz幅に拡大し、高速・大容量化が実現する。音声通話だけでなく、映像伝送など、これまでは不得手とされてきた用途にも利用シーンの拡大が見込まれる。

そこで気になるのが、類似の通信方式との違いだ。高速の自営網といえば、真っ先に思い浮かぶのがローカル5Gだろう。sXGPとの比較を図表1にまとめた。

図表1 sXGPとローカル5Gの比較

図表1 sXGPとローカル5Gの比較

sXGPの優位性は、簡便かつ安価な点にある。アンライセンスのsXGPは、極端に言えば技適取得が済んだ機器を用意し、電源を入れるだけで使える。免許申請の手間がないのはもちろん、ローカル5Gで必須となる周辺ユーザーとの干渉調整も不要だ。

パラメータ設定も煩わしくない。LBT(Listen-Before-Talk)、つまり送信する前にチャンネルが近傍の他のシステムで使われていないかどうかの確認を行い、使用チャンネルを決定するからだ。1.9GHzという周波数は比較的低いため回り込みに強く、出力は規格上最大親機200mW、子機100mWに定められているものの、100mは伝播するので十分実用的だ。

コスト面でいえば、ローカル5Gは普及しつつあるとは言え、最小構成でも数百万円規模の費用がかかる。しかしsXGPはLTEという成熟した技術を用いるため、費用は安く、ローカル5Gの10分の1に抑えられる規模だ。

時刻同期のためにGPSの受信がローカル5GでもsXGPでも必要となることがある。屋外にアンテナを設置し基地局まで引き込むのは、敷設の規模が大きいほど負担となる。sXGPでは、GPS同期の代替手段や、GPS受信装置の集約など、設置を容易にする方法を各社の取り組みによって実現している。

設備や周波数の専有・共有という観点で類似通信方式をマッピングしたのが図表2だ。安定した通信のためには設備も周波数も専有するのが望ましい。これに最も近いグループがsXGPとローカル5Gだ。外部ネットワークの影響を受けにくいので、安定かつ信頼性の高いシステムを提供し、災害時等のBCP対策にも力を発揮する。公衆回線に障害が生じても通信を続けられるのは自営網の強みだ。反対に、周波数・設備を共有すると当然輻輳や障害に弱くなる。施設内で業務Wi-Fiを整備しても、周波数は共有しているためリスクは常につきまとう。

図表2 類似通信方式との比較

図表2 類似通信方式との比較

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