ネットワーク仮想化の波は、MNOのみならずMVNOにも訪れている。KDDI傘下のBIGLOBEは2020年11月、モバイルサービス基盤を刷新し、全面的に仮想化した。
MVNOは、無線設備をMNOから借りてサービスを提供している。BIGLOBEでは、コアネットワークのうちPGW(PDN Gateway)やTMS(Traffic Management Solution)、PCRF(Policy and Charging Rules Function)など、従来はそれぞれの特性に応じて専用のハードウェアで構成されていた各ノードを、汎用のハードウェア上のソフトウェアに置き換えることで仮想化を実現した(図表1)。MVNOとしては初めての取り組みだという。
図表1 新モバイルサービス基盤の概要
BIGLOBEは5G時代に向けてモバイルサービス基盤の見直しを進めており、“脱・専用ハードウェア”による仮想化は、その第1ステップに位置付けられる(図表2)。
図表2 BIGLOBEのモバイルサービス基盤の技術戦略
今回、仮想化に踏み切った目的として、BIGLOBE コンシューマ事業本部 副本部長の黒川英貴氏は「ネットワークの柔軟性・拡張性、サービス開発のアジリティ、運用の効率化」の3点を挙げる。
BIGLOBE コンシューマ事業本部 副本部長 黒川英貴氏
近年、MVNOの競争環境は厳しさを増している。国による値下げ圧力を受けたMNOが、ここ数カ月の間に安価な料金プランを相次いで発表。「格安」と評される廉価な端末と料金プランを“売り”にしてきたMVNOは、生き残りが難しくなっている。
そうしたなか、BIGLOBEのMVNOサービス「BIGLOBEモバイル」の「エンタメフリー・オプション」が好評だ。定額で対象サービスの動画や音楽を視聴することができ、多様化するユーザーニーズに応えたサービスだ。
エンタメフリー・オプションのようなゼロ・レーティング(特定のコンテンツやアプリケーションに関する通信に限って課金対象から除外する料金施策)は、他のMVNOからも提供されている。
しかし、大容量の動画や音楽を対象としたゼロ・レーティングは限られる。エンタメフリー・オプションは、他社と差別化を図るうえで強力な“武器”となっており、新規契約者の約5~6割が加入しているそうだ。
ただ、利用者が増えると当然その分トラフィックは増加し、モバイルサービス基盤の負荷も高まる。だが、専用ハードウェアでは迅速な増強が難しい。特に一時的に利用が集中した場合に、柔軟に拡張できないことが課題だった。
加えて、異なるネットワーク機能をそれぞれ専用ハードウェアで構成すると統合管理が難しく、運用効率性も低下していたという。