日本では「スーパーシティ」構想が動き出したが、その前段となるスマートシティの実装においては欧米や中国の後塵を拝しているのが現状だ。「正直、日本は周回遅れに近い」と語るのは、PwCコンサルティングのシニアマネージャーで海外スマートシティ動向に詳しい内藤陽氏。スマートシティを実現するための技術要素は揃っているものの、社会実装のスピードに大きな差があるという。
「スマートビルやスマートモビリティといった特定分野の取り組みは日本もそれなりに進んでいる。ただし、分野ごとの“縦”の動きに留まっていて、複数の機能をつなぐ横串が進まない。まだ模索の段階だ」
スマートシティの目的である社会課題の解決には、複数機能の連携が欠かせない。例えば高齢者医療の問題は病院への移動の効率化、地域医療機関の情報連携、在宅医療・介護、医療従事者の負荷軽減、電子決済など多くの要素をスマート化しつつ、それらが連携して初めて解決に近づく。「そのつなぎ方が見えていないのが一番の課題だ」(同氏)。
PwCコンサルティング シニアマネージャー 内藤陽氏
米中は大手IT企業が先導各種の課題を解決するアプリケーション/サービス群の情報流通・連携を可能にするためのプラットフォーム構築こそ、スマートシティ実現の鍵を握る。海外の都市は、これをどのように進めているのか。内藤氏によれば、同じ国の中でも都市ごとに違いはあるものの、「中国と米国は似ていて、都市国家が元になる欧州はまた異なる進め方をしている」という。
中国ではアリババ、テンセント、ファーウェイ等が中心となって街づくりを進めるケースが多い。北米ではグーグルの姉妹会社であるサイドウォークが手掛けたカナダ・トロントのプロジェクトが頓挫するなど必ずしもうまく行っていないが、「GAFA等の大手IT企業のイニシアチブが非常に強い。特に中国は、街ごとに全体を俯瞰する企業がいる」。一方、自治体の力が相対的に強い欧州は、「クワトロ・ヘリックス(産官学民が連携し、合意形成しながらイノベーションを進める手法)がメインで、必要に応じて外から企業を連れてきて進めるスタイル」だ。
対して日本は、「コンセンサスを大事にする国なので、どこか1社がリードすることは嫌がられる傾向がある」と同氏は指摘する。米中のようなスピード感は望めなくなるが、我が国では複数の企業・団体がコンソーシアムのような共同体を作り、住民を巻き込みながら進めていくのが現実的だろう。
その際に重要なのは政府・自治体が明確な方針を示すことだろう。その意味で、中央・省政府の政策が大きな推進力となっている中国の取り組みには参考にすべきポイントが少なくない。