3.7/4.5GHz帯および28GHz帯と従来の移動通信システムよりも高い周波数帯を利用する5Gでは、広い帯域幅を確保して高速大容量通信を実現できる。その半面、直進性が高く電波が飛びにくく、1つの基地局でカバーできる範囲は小さい。より多くの基地局を設置する必要があり、設置場所の確保にコストや手間がかかるのが課題だ。
その解決策として、交通信号機を活用した5Gネットワーク構築の検討が進んでいる。
交通信号機は全国津々浦々にあり、総数は約21万機にのぼる。地上5~6mと見通しの良い場所に設置されており、ここに5G基地局アンテナを設置できれば、周辺を5Gエリア化することが容易になる。通信キャリアにとっては、設置場所を探したり地権者と調整する負担が軽減され、5Gネットワーク整備の加速化にもつながる。
設置需要は全国4000カ所交通信号機を5G基地局の整備に活用する計画は、2019年6月の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に盛り込まれた。その後、閣議決定を経て、PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)事業として、2019年度から3カ年計画が本格的に始動した。2022年度の全国展開を目指している。
1年目は、5Gを推進する総務省と信号機所管する警察庁がそれぞれ実運用に向けた検討委員会を設置。総務省では、主に交通信号機を活用した5G基地局の有望な展開エリアおよび展開数について、通信キャリアや基地局ベンダーへのヒアリングなどを踏まえて取りまとめを行った。
それによると、都市部においては、利用者が集中するエリアやビルの谷間、高架下など電波の不感地帯の補完として約3000カ所の設置需要があると試算。郊外やルーラルでは、イベント会場周辺のほか、景観条例などで置局が制約される観光地など約1000カ所と見積もっている。
警察庁の検討委員会では、通信キャリアと交通信号機の管轄である都道府県警察間での費用負担や責任分界点を整理。5G設備の工事や運用保守などに関わる費用は通信キャリア、信号制御機との接続工事や交通管制の改修費用といった信号設備に関わる費用は都道府県警察が負担することでまとまったという。
基地局設置に関わる調整や運用・保守、非常時における連絡窓口を一元化し、通信キャリアや都道府県警察のやり取りを仲介する第三者機関の設置も検討している。「様々な組織との調整や手続きなどを第三者機関に一任できれば、通信キャリアと都道府県警察の双方にメリットがある」と警察庁 交通局 交通規制課 課長補佐の國枝和正氏は説明する。
第三者機関をめぐっては、実施主体に求める機能や役割について議論が行われている。さらに、「警察が管理する交通安全施設と、各キャリアが管理する基地局が同一箇所に設置される特性上、双方の知見を有する第三者機関による仲介が必要であるとの意見が出ており、活発に議論が行われているところ」(國枝氏)だという。
警察庁では、5Gでネットワーク化した信号柱にカメラを設置し、周辺の交通流をリアルタイムに把握するとともに、信号制御機を集中制御することで渋滞の緩和などに役立てようとしている。
現状、信号制御機と各都道府県警察の交通管制センターの通信には主としてアナログ専用線が使われており、5Gネットワークに接続することができない。しかし、大容量の高精細映像を送信したり、5Gネットワークを介して遠隔から集中制御するにはデジタル化が不可欠であることから、アナログからの変換を容易に行えるインターフェースプロトコル変換装置を開発中だ。
また、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)において、路線センサー情報やプローブ情報、画像センサー情報をAIを使って解析し、交通信号制御を高度化する研究開発が行われている。
これらが実用化されれば、交通信号機は情報インフラへと進化することになる。