SD-WANへの企業の注目が高まったことで、“めったに変えない”のが常識だったWANの考え方に変化が生まれた。いま何が起こっているのかを簡単に把握し、かつ拠点の新規開設や業務アプリケーションの変更といったビジネス状況の変化に即応して「動くネットワーク」─。企業は、そんな可視性と即時性を持つWANを必要とし始めている。
とはいえ、日本国内におけるSD-WANの普及には思いのほか時間がかかっている。特に高いハードルとなっているのが、専用のCPE(宅内通信装置)導入が必要なことだ。既存のルーター等からの置き換えが容易でないことが導入の足枷になっている。
そんな国内のSD-WAN事情にインパクトをもたらしそうな動きがある。中堅中小企業向けルーター市場で大きなシェアを持つヤマハの動きだ。
慣れ親しんだ機器でSD-WANヤマハは約2年前の2016年6月に、同社製ネットワーク機器をクラウドから統合管理するサービス「Yamaha Network Organizer(YNO)」を開始した。機器の情報をクラウドに集約し、ネットワークの状態を一元管理できるものだ。ヤマハはYNOの機能強化によって、ユーザー企業やそのネットワーク保守運用を行うSIer/NIerが、慣れ親しんだ機器で“SD-WAN的”な機能を使えるようにしようと狙っている。音響事業本部 事業統括部 SN事業推進部 ネットワークマーケティンググループ主事の小島務氏は次のように話す。
「顧客と話しながら、足りない機能をYNOに加えてきている。最近は『SD-WAN的だね』と言ってくださる顧客が増えてきた」
ヤマハのネットワーク機器は、例えば飲食店のように、高度スキルを持つエンジニアを派遣して現地作業を行うのが難しい現場でも大量に使われている。「ヤマハ流SD-WAN」が実現すれば、そうした日本企業のネットワークを、大掛かりな変更を伴わずにSD-WAN化できるわけだ。
ヤマハ 音響事業本部 事業統括部 SN事業推進部
ネットワークマーケティンググループ主事の小島務氏(左)と、
国内営業グループの金丸大海氏
実際にYNOで何ができるのか。
一般的にSD-WANには複数拠点・回線の一元管理、ゼロタッチプロビジョニング(ZTP)、DPIによるトラフィック識別・制御などの機能がある。現状でYNOがそれらを網羅しているわけではない。「現場作業をいかに軽減するかという目線で、1つひとつ機能を実装している」と小島氏は話す。
重要なステップとなったのが、2018年春に「RTX1210」ルーターで初めて対応した「GUI Forwarder」だ(図表1)。ネットワーク全体を管理するYNOの画面から、拠点側のルーターのWeb GUIを呼び出す機能である。ヤマハのルーターには従来から、配下のスイッチや無線LANアクセスポイント等を可視化する「LANマップ」機能が搭載されている。それに、YNOからシームレスにアクセスできるようにした。
図表1 GUI Forwarder
「これまではリモートから拠点側のルーターにVPN接続して利用していたものが、クリック1つで簡単にアクセスできるようになり、さらに、ブラウザ画面で拠点内のLANまで管理できる。『SD-LAN』的な要素も組み合わさることで、価値を見出していただけるようになった」と小島氏。SIer/NIerの反応は良好で、保守作業の負荷軽減への期待も高いという。
「LANマップ」の画面イメージ