――2007年11月の総務大臣裁定を経て、NTTドコモとの相互接続が完了したのが昨年8月7日。この日を機に、日本のMVNOは本格的なスタートを切ったわけですが、1年が過ぎました。
三田 まあ、大変な1年でした(笑)。日本通信の企業文化は「walk the talk」――有言実行です。本当に信じてやる気がないのであれば「言うな」「言うべきではない」と。2009年3月にレイヤ2接続も完了し、日本通信はもう誰にも文句を言えない状況になった。これまで言ってきた戦略を、言った通りに実現していく段階に入ったわけです。
それで最初の半年は、MVNOの「自由」を社会に紹介することに集中しました。総務省のモバイルビジネス研究会で、野村総研がMVNOの市場規模を2011年に1兆円、2015年に2兆円と試算したことの効果はすごく大きかったのですが、どうして2兆円市場に拡大していくのか、移動体通信のネットワークを自由に使えるとはどういうことなのか。その本当の意味をまだ皆さん、きちんと理解されていなかったと思います。
ですから、例えば以前は大変な時間とコストがかかるキャリアのIOT(相互接続試験)が慣習となっていましたが、実際には、技術適合していれば自社が選んだ端末を自由に使える。また、ソフトウェアについても何のバリアもないといったMVNOの「自由」を、まずは日本通信自身が「b-mobile3G」などの製品を展開することで紹介していきました。
――そして11月にはMVNE戦略を発表し、MVNOを支援するMVNE事業にシフトする戦略を明確にしました。
三田 僕たちの役割は市場を創ること。2兆円市場は、1社では創れません。イネーブラーとしてMVNOを支援することが本当の役割だと、戦略を見直しました。今年3月、日本通信はチャージ式のデータ通信サービス「ドッチーカ」を始めましたが、これも自社で顧客を獲得するためというより、こうした本当の製品が、本当のお客さんに、本当のお金で売れるということを証明するためでした。その証明があったから、日本ヒューレット・パッカードも日本通信の通信サービスを“部品”としてノートPCに入れたいと思ったのです。
200社とMVNOの商談中
――大きな話題となった日本HPをはじめ、日本通信の支援を受け、MVNO事業に参入する企業が相次いでいますが、合計何社になりましたか。
三田 先方の都合で発表できない案件もあるので発表済みの企業数になりますが16社です。日本通信に足りないのは信用、人財、資金の3つですが、三菱電機情報ネットワークや住友系列のスターネットといった企業が信用してくださっているということで、少しずつ信用は高まっていると思います。今、MVNOの商談は200ぐらい進んでいるのですが、そのうち当社からアプローチしたのは1割程度。後はすべて先方からの申し入れです。人財が足りないというのは、これだけの商談が動いているためで、新しい役員を入れるなど強化を図っています。
――3つめの課題である資金についても最近調達しましたね。
三田 9月2日に約18億円の調達が完了しました。資金調達のため欧州に出発してから資金調達スキームが完成するまでは1週間。大企業でも資金調達が難しい環境のなか、こんな短期間で18億円もの資金調達ができる日本の中小企業というのは、あまりないのではないでしょうか。
――ところで、日本通信はドコモとの“闘い”の末、相互接続の権利を獲得したわけですが、ドコモとの関係は今どんな感じですか。
三田 昨年8月、「この1年間、何をやりますか」とある記者に聞かれて僕は、「ドコモの山田社長に『MVNOをやってよかった』と思ってもらえるようにする」と答えましたが、今、山田社長にはそう思っていただけていると考えています。
ドコモ社内にはまだ“闘い”といったイメージが残っているかもしれませんが、山田社長とは「お互いに協力しましょう」とフレンドリーな関係です。MVNOの役割とはキャリアができないことを市場に紹介し、キャリアのネットワークの価値をますます強化していくことなのですから。