グーグルを擁するアルファベット傘下のネスト・ラボ(Nest Labs)が推進するIoT無線規格「Thread(スレッド)」の展開がいよいよ本格化する。推進団体のThreadグループが策定した技術仕様に準拠した初の認証製品が今秋から市場に投入されるのだ。
「2016年中に200種類近くの製品が認証を取得すると言われている。これだけ短期間で立ち上がってきた無線規格は聞いたことがない」。こう語るのは、Threadグループの創設メンバーの1社である半導体ベンダー、シリコン・ラボラトリーズ(以下シリコンラボ)の水谷章成氏だ。
シリコン・ラボラトリーズ(日本法人)代表取締役社長の深田学氏(左)とloTスペシャリストの水谷章成氏 |
IPでメッシュ通信を実現Threadは、家の中の様々な機器をネットワークに接続して効率的で快適な生活を実現する「スマートホーム」向けに作られた無線規格だ。
スマートホームで用いられる無線技術の1つに家庭にも広く普及しているWi-Fiがある。しかし、消費電力が大きいWi-Fiは、電池で長時間の稼働が求められるセンサーなどには適用しにくい。そこで米国では、省電力性に優れるZigBeeやZ-Waveがセンサーや照明の制御などに利用されるようになっている。ただし、スマートホーム向けの無線技術として見た場合、ZigBeeやZ-Waveには欠点もある。IP(インターネットプロトコル)をサポートしておらず、インターネットやLANと接続するには、ゲートウェイでプロトコル変換を行う必要がある点だ。なお、ZigBeeにはIPベースのZigBee IPもあるが、機能的に十分とは言えず、あまり普及していない。
Threadは、物理層/MAC層にZigBeeと同じ「IEEE802.15.4(以下「15.4」と表記)」を用い、その上位層(ネットワーク層/トランスポート層)にIP通信機能を実装することで、高い省電力性とインターネット/LANとのシームレスな通信を両立させたものだ(図表1)。
図表1 アプリケーションに依存しないThread |
ZigBeeと同様、バケツリレー式で端末同士をつなぐことで遠距離伝送を可能にしており、障害が発生した際に自動で別経路に迂回するメッシュネットワークを構成できる。ただ、経路設定をIPで行っていることがZigBeeとの大きな違いとなる。IPv6に対応しており、1つの端末に複数のアドレスを割り当てることも可能だ。
ZigBeeの場合、IP変換が必要なのでIP網と接続するゲートウェイは1カ所に集約する必要があるが、IPベースのThreadにはこうした制約がなく、接続点となるボーダールーターを複数設置して障害に強いネットワークを実現できる。
スマートフォンやPCには現在、「15.4」対応の無線モジュールが搭載されていないので、Threadのデバイスとは直接通信することはできないが、ボーダールーターでWi-FiをサポートすることによりスマートフォンやPCとの通信を可能にすることが想定されている(図表2)。
図表2 Threadの基本的なネットワーク構成 |
なお、Threadは、主に2.4GHz帯で運用され、通信速度は250kbpsとなる。