「ローカル5Gのニーズには、明らかな潮目の変化を感じています」──NTT東日本の加藤健裕氏はこう語る。
自社専用の高速・大容量の通信環境を構築できるローカル5Gは、登場当初からDX実現の切り札と期待されてきたが、導入コストや免許申請の手間、構築・運用の難しさが壁となり、概念実証(PoC)にとどまるケースも多かった。ここにきて、その状況が変わりつつある。
「Wi-FiやLTEで業務アプリを運用してきたお客様が、ネットワークの安定性や上り通信の独自の品質に魅力を感じ、ローカル5Gを再評価するケースが増えています。これまで適切なネットワークがなかった場所や、既存の回線では十分な成果が出なかったお客様から強い要望をいただくようになりました」と加藤氏。実際、導入企業の裾野は従来中心だった製造業から流通、建設など多業種に広がり、自治体での導入も続いている。

(右から)NTT東日本 ビジネス開発本部 無線&IoTビジネス部 5G/IoT企画担当 担当課長 加藤健裕氏、和田佳氏、西原英臣氏、ワイヤレス&センシングビジネス部 テクニカル&ビジネスインキュベーション部門 先進ワイヤレス開拓担当 担当課長 森永百合香氏
こうした広がりの可能性は、ローカル5Gの用途の拡大・高度化に支えられている。ローカル5Gは、上り通信を多用するカメラ映像の伝送など代表的な用途に加え、「今後は自動化・省力化、AI活用といった“データリッチ”な使い方がより広がっていくと考えています」(加藤氏)。現場で取得したデータを分析し、その結果を現場にフィードバックするというサイクルを回すため、常時安定してつながる通信環境がより求められるようになっていく。
費用の低廉化も導入を後押ししている。商用化当初は“5年総額1億円”が目安とされていたが、NTT東日本が提供するマネージド型ローカル5Gサービス「ギガらく5G」は工事費やトータルITO(ITアウトソーシング)も含めて5年総額約2200万円という価格を実現。資金の限られた企業や自治体でも導入しやすい価格帯といえるだろう。電波免許の取得やネットワーク設計、システム構築、導入後の運用・サポートまで含めてパッケージ化されていることも、導入のハードルを大きく下げている。
このように、ローカル5Gはもはや“試す技術”ではなく、現場の課題解決を支える実用インフラへと進化している。NTT東日本が支援する導入事例は、このことをはっきりと物語っている。多様な企業のニーズに応え、ギガらく5Gをはじめ有線/無線の組み合わせ、ならびにカメラやセンサーなどエンドデバイスの提案など、最適なネットワークソリューションを提供することで、産業DX・地域課題解決に貢献している。その取り組みを見ていこう。
広域の無線化は“得意技” 工場・港湾のDXを加速
ローカル5Gの広いカバーエリアは、広大な敷地を持つ製造業や港湾の現場で力を発揮する。敷地全体に広域無線ネットワークを構築し、不感地帯のない安定した通信を実現できるからだ。
製塩業大手・日本海水の赤穂工場(兵庫県)では、東京ドーム約1.5個分の敷地にローカル5Gを導入。カメラによる出入庫管理や日報のデジタル化など、業務効率化に大きく寄与している(図表1)。
図表1 日本海水赤穂工場におけるローカル5G利用イメージ

大阪港の夢洲コンテナターミナルでも、ローカル5Gを活用し現場作業をデジタル化。コスト削減効果は年間約2700万円が見込まれる(両事例の詳細はこちら)。









