Starlink Mini 1回線で2台の建機を遠隔操作 10台のHDカメラ映像を同時伝送

国立研究開発法人土木研究所とハイテクインター、ジツタ中国、中電工は、茨城県つくば市に配置した2台の建機を約900km離れた北海道沼田町のハイテクインター北海道開発テストセンターから、低軌道衛星通信回線(Starlink Mini)を用いて遠隔操縦を行う実証実験を実施。その様子を6月12日、報道関係者などに公開した。

実験では、計10台のHDカメラの映像をStarlink Mini 1回線で同時伝送して2台の建機の遠隔操作を実現している。ハイテクインターの担当者は、「10台のHDカメラ映像を同時伝送して2台の建機を動かすのは、世界的にも初の試みではないか」と話した。

北海道から遠隔操縦されている油圧ショベルとクローラーダンプトラック(つくば市の実験フィールド)

北海道から遠隔操縦されている油圧ショベルとクローラーダンプトラック(つくば市の実験フィールド)

日本では建機の遠隔操縦の取り組みが、雲仙普賢災害の復旧工事を機に本格化した。近年では、省人化を目指した遠隔施工の取り組みが活発になっており、通信手段も5G/ローカル5G、Wi-Fi 7など多様な無線システムが利用されるようになっている。その中でも米SpaceX社のStarlinkは、山間部の建設現場や災害復旧現場の通信手段として利用拡大が見込まれている。

ただ、Starlinkなどを活用した新しい形での遠隔操縦の実現にはいくつかの課題が存在するという。

1つが低遅延化だ。

省人化対策に活用するには、オペレーターが特別な訓練を受けなくても遠隔操縦を行えるようにしなければならない。そのためには、HDレベルの高精細映像で現場の状況を把握できなければならないが、回線速度に制約があるStarlinkや公衆5Gサービスなどの場合、映像を大幅に圧縮して伝送する必要があり、一般的なビデオコーデックではエンド・ツー・エンドで1秒近い遅延が生じる。

しかし、「違和感なく遠隔操縦を行うためには、この遅延を300ミリ秒程度に抑える必要がある」(ハイテクインター)という。

今回の実験では、HD映像を1Mbpsに圧縮して送れ、コーデック遅延も50ミリ秒に抑えられるハイテクインターの超低遅延ビデオエンコーダー技術が活用されている。

2つめの課題が、限られた帯域、不安定なネットワークでの高品質映像伝送の実現だ。

Starlinkや公衆5Gサービスの場合、ネットワークの混雑により、伝送容量が制限されたり、パケットが損失して映像が乱れるなどの可能性がある。ハイテクインターでは伝送エラーがある環境でも、遅延を最小限に抑え、高品質な映像を安定的に伝送できる(伝送エラー耐性の高い)という新技術「BAERT(Bandwidth Adaptive and Error Resilient video Transmission)」を開発したとのこと。

最後が、多数のカメラ映像伝送への対応だ。

建機の遠隔操縦には施工現場の確認のため4台程度のビデオカメラが必要。全体の状況を把握するための俯瞰カメラも用意しなければならない。

他方、Starlinkのような低軌道衛星通信回線の上り回線の帯域は5~20Mbps。回線帯域の変動もあるため、フルHD映像を数台分送るのが限界だったという。

この課題克服のため、ハイテクインターが用意するのがBAERTの1機能である「帯域最適化映像伝送」。回線帯域に合わせた最適な符号化レートにより低遅延での映像伝送を可能にする機能だ。

今回の実験の狙いは、これらの技術を用いることで、Starlinkを利用した建機の遠隔操縦が可能であると実証することである。

遠隔操縦の様子(ハイテクインター北海道開発テストセンターからの中継映像)

遠隔操縦の様子(ハイテクインター北海道開発テストセンターからの中継映像)

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