KDDI総合研究所と東芝デジタルソリューションズは2025年3月26日、盗聴が不可能な量子鍵配送方式(QKD方式)の暗号鍵をC帯(1530-1565nm)に、大容量データ信号をO帯(1260-1360nm)にそれぞれ割り当て、1心の光ファイバーで多重伝送する技術を開発したと発表した。
同技術の概要:光ファイバー1心による大容量データと暗号鍵の多重伝送
6G時代には、AIやIoTの普及により、現在よりもはるかに膨大で多様なデータがネットワークを流通することが想定されている。また、様々な認証で使われる生体情報や個別化医療に必要なゲノム情報など、機密性が極めて高い情報の伝送も将来的に増えることが予想され、大容量かつセキュアなデータ通信サービスが期待されている。
伝送されるデータをサイバー攻撃から守るため、現在、計算困難性に基づく暗号が用いられているが、将来的に量子コンピューターによって短時間で解読されてしまうことが懸念されている。そのため、暗号鍵を安全に伝送できるQKD方式が注目されている。QKD方式は、盗聴しようとすると量子の状態が必ず変化する、という量子力学の原理によって盗聴の検知が可能なため、暗号鍵の盗聴および暗号化されたデータの解読は不可能であり、安全性が保証されている。
一方で、微弱な光を用いるQKD方式は、近接する波長の光により生じるノイズを受けてしまうため、QKD方式を利用するには暗号鍵を伝送する専用の光ファイバーが必要になり、導入・運用コストが課題になっている。この課題を解決するため、異なる波長を用いて、QKD方式の暗号鍵とデータ信号を光ファイバー1心に多重し、伝送する技術が研究されているが、データ伝送の大容量化と長距離化の両立は困難だった。データ伝送の大容量化はQKD方式に与えるノイズを大きくし、長距離化はQKD方式が受けるノイズの影響を強めるためだ。
今回、O帯で伝送するデータ信号が、C帯で伝送するQKD方式の暗号鍵へ与える影響を分析・評価し、O帯伝送の光パワーや帯域幅を最適化しつつ、伝送後のO帯データ信号を増幅器で適切に増幅するパラメータを特定。これにより、QKD方式の暗号鍵を伝送損失が少ないC帯で、大容量データ信号を超広帯域なO帯で多重伝送し、光ファイバー1心でQKD方式の暗号鍵と33.4Tbpsの大容量データ信号を、80km伝送することに成功した。
この成果は、QKD方式の暗号鍵とデータ信号の両方をC帯で多重伝送する従来技術に比べて、伝送容量においては約3倍、伝送容量と伝送距離の積で示す伝送性能指数(容量距離積)においては約2.4倍高い性能となるという。