――通信事業者におけるAIの活用をどう見ていますか。
岸田 2023年の生成AI登場以前から、通信事業者は業務効率化の文脈でAI活用に取り組んできました。ネットワークがソフトウェア化していく流れの中で、これまではプログラムを組んだり人が目視をしたりして行っていた作業がAIに切り替わっています。通信事業者にとってAIを活用する主なインセンティブはコストとヒューマンエラーの削減なので、AIの活用は今後さらに広がっていくでしょう。
ただ、敷居の高い領域と低い領域、局所的に導入すればいいのか全体的な導入が必要なのかなど、様々な論点があるので、まずは手の着けやすいところからAIの導入が進むことになると思います。
生成AIについて言えば、顧客接点の強化とネットワーク運用の高度化が導入目的ですが、コールセンターでのLLM導入はすでに存在する業務への適用であり、FAQの延長といえます。ネットワーク運用への適用では、AIがソフトウェアの動作を制御するために、どのようなデータを学習させるかが重要となり、ここに試行錯誤が起こります。例えば、電波の干渉や発出(チルト)角などの無線のハードウェア的側面から、トラフィックの分散、ルーティングに至るまで、いろいろな技術が存在します。AIが存在していない分野で学習させるので時間を要しますが、あるしきい値を超えたタイミングでAIが優位になれば、人がやることが減って自律的になり、適用の速度は上がるでしょう。ただし、一定の時間はかかると思います。
情報通信総合研究所 ビジネス・法制度研究部 部長 主任研究員 岸田重行氏
――AI活用において、通信事業者が特に力を入れていることは何ですか。
岸田 RANへのAI適用です。RANインテリジェントコントローラー自体がAIなしには実行できません。これはネットワーク運用そのものに関わる、ど真ん中のところです。
中村 AI活用には電力が必要になりますが、省電力化のためにはSLM(小規模言語モデル)も有効と考えられます。いずれにしても、RANへのAI導入は既定路線です。
――O-RANに見られるように、RAN開発の主導権がベンダーから通信事業者に移りつつあります。この流れがAIで加速するのでしょうか。
岸田 それは当然あります。大手通信事業者は、マルチベンダー環境の開発から運用までを、自前で主導したいと思っているはずですし、AIの活用もしかりでしょう。通信事業者主導でのアライアンス設立が象徴的です。それに対し、世界のほとんどの通信事業者は中小規模のため、ベンダーまかせになるのが実状です。そうした事業者は、大手事業者やベンダーが開発し、こなれた環境を利用することになるのではないでしょうか。