(左から)アビームコンサルティング 産業インフラビジネスユニット ダイレクター 古川朝功氏、同ユニット マネージャー 埋田奈穂子氏
――通信事業者は現在、どのような環境変化に晒されていますか。
古川 個人向けと法人向けという2つの軸で見る必要がありますが、個人向けの通信は料金の低廉化や人口減少により縮小傾向になるでしょう。一方で法人向け、特に非通信領域に関しては通信事業者にとって大きなビジネス機会になり得ます。
5GやAI、IoTなどが起爆剤になると思われますが、AIについては産業特化型AIというふうに細分化されつつあります。これらを自分たちの事業に上手く取り込めるかが、成否の分かれ目になるでしょう。
――非通信領域の中でも、通信事業者はどの領域に注力すべきでしょうか。
埋田 医療・ヘルスケアは有望業種の1つです。日本の人口が減っていくなか、政府は健康寿命の延伸に向けた取り組みを加速させています。医療費の負担が国にとって重荷になっているうえ、人々の健康維持をクリニックなどの既存の医療機関だけで賄うことが難しくなってきているからです。
温泉療養やフィットネスジムが医療費控除の対象になるといった取り組みも進んでいますが、医療機関間の連携はまだこれからという状況です。街中の医療機関で検査を受けた後、大きい病院でも同じ検査を受診させられたという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。これでは効率が悪いので、クリニックとヘルスケア機関、薬局が連携しながら地域住民の健康向上に努めていくことが大切です。
通信事業者としても、収益の新しい柱を見つけなければなりません。医療・ヘルスケアの領域は、通信事業者が持つアセットと親和性が高いと考えています。例えば医療機関は、個人情報や病歴などのセンシティブなデータを扱うため、セキュリティが求められます。大容量かつクリティカルな情報をセキュアに扱うことは、通信事業者が強みとしてきた分野です。
――通信事業者は医療・ヘルスケア領域にどのようにアプローチすればいいですか。
埋田 自社のアセットの棚卸は必ず踏むべきステップです。通信事業者が持つソリューションや技術もそうですが、顧客基盤やパートナリング、所有するデータなどもアセットです。これらを踏まえて、参入の余地を見出し、通信事業者としてどのような打ち手を提供できるかを考えていく必要があるでしょう。