「農村地域では、少子高齢化・人口減少が都市部に先んじて進んでおり、水田や畑で使う水を供給したり、排水したりする水利施設等の管理体制の脆弱化や労働力不足が深刻な問題になってきている。ICTを活用して、人がいない中でも、効率的に農業を行っていくことは避けて通れない」
こう話すのは、農林水産省で農業・農村の情報通信環境整備を担当する坂隼人課長補佐だ。
農林水産省 農村振興局 整備部地域整備課 課長補佐 坂隼人氏
水利施設の遠隔監視・制御やRTK(高精度位置情報)によるトラクターの運行支援など、農業分野でのICTの活用は着実に広がってきた。
ただ、もちろん課題はいくつもある。その1つがICT活用の前提となる通信インフラに関するものだ。例えば4G携帯電話の人口カバー率は99.9%を超えるが、住宅地から離れた農地には、エリア外であったり、通信が不安定な場所も少なくない。
そこで農林水産省では、2021年(令和3年)度から、農山漁村振興交付金に「情報通信環境整備対策」を加え、自治体や農業水利施設の管理を行う公法人である土地改良区などによる情報通信施設整備の支援に乗り出している。
ローカル5Gの整備も支援可能
支援対象となるのは、「農業農村インフラ管理の効率化・高度化」と「スマート農業の実装」のために使われる、無線基地局と光ファイバーの整備費用だ。自動給水栓や監視カメラ、スマート農業用の各種センサーなど、端末側の設備も対象となる。
対象となる無線システムには制約はなく、LoRaWANやZETAなどのLPWAから自営BWA、ローカル5G網の整備にも利用できる(図表1)。
図表1 農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)による支援対象
LPWAを使うことで、コストを抑えられるケースなどでは、4Gエリア内でもこの制度で施設を整備可能だ。
地域振興も同事業の狙いの1つとなっており、支援を受けて整備する光ファイバーを活用して交流施設に公衆無線LAN設備を設ける場合などは、その整備費用も支援対象となる。
支援額は整備費用の1/2(中山間地域などでは割増がある)。支援対象は総事業費800万円以上の、ある程度の規模の事業となる。
この「施設整備事業」で補助を受ける際に求められる「情報通信環境整備計画」の策定などの費用も「計画策定事業」として、全額国費で支援される。