韓国では、果たしてビジネスマンの何人に一人がサムスンやその関連会社に勤務していることだろう?
それくらい韓国におけるサムスンの影響力は強い。そして誰もがサムスンに入社したがるが、しかし入ってからの競争も熾烈だ。
また、市場にはサムスン出身のエンジニアや経営者がやたらに多い。その意味では人材養成学校でもあり、そうした「卒業生」の製品をうまく取り込んでいるのもサムスンの強さのように見える。未だ人づての営業が中心の韓国では「卒業生」の製品を評価したり、購入したりということも珍しくない。「卒業生」もそうしたコネがあるから、ある意味安心してスピンアウトできる。いわば暗黙のエコシステムが出来上がっているわけだ。なので、このエコシステムに外部の人間が割って入ることは容易ではない。
自国市場をテストベッドに世界市場へ
もう1つ韓国を見ていて興味深いのは、自国市場をテストベッドにし、その成果を海外市場に展開していくというフォーメーションが出来上がっていることだ。その有名な例としては、WiMAXの前身であるWiBroのケースが挙げられる。韓国はWiMAXに先駆けて国内でWiBroを展開した。こうした官民挙げた取り組みはICTに限らず、原子力や鉄道などを含めて、様々な分野で見ることができる。
最近では、サムスンが2010年初めに発売した電子書籍端末「Samsung E6 e-reader」もその例に該当するかもしれない。これは、アマゾンのKindleの成功を受けて独自の電子書籍端末で世界市場に打って出ることを決めたサムスンが、それに先立ち韓国市場で発売したものだ。韓国最大の書店チェーンであるキョンボ文庫社と販売で提携、さらに6つの全国紙を3カ月間無料購読できる特典も功を奏したのか、発売直後に通販サイトを覗いてみると、すでに完売。筆者は発売開始から1カ月待って、ようやく入手できた。
Samsung E6 e-reader |
ところが、実際に使い始めると、この電子書籍端末は問題だらけだった。まず電池が持たない。電子ペーパーを採用した同端末はバッテリーの持続時間がセールスポイントであるべきだが、せいぜい3時間くらいしか持たないのである。さらに、Wi-Fiがつながりにくい、電子ペーパーの反応が遅い、端末が重いなど、率直にいって「失敗作」だった。その後いくつかのアップデートプログラムがリリースされ、その度に少しずつ問題は改善していったが、結局は根本的な解決には至らず、販売されているのを見ることもなくなっていった。5万円近くもした同端末だが、どうやら世界進出前の「テストベッド向け試作品」を筆者は掴まされてしまったようだ。
後日聞いた話によると、この電子書籍端末の発売当初の売り切れは、サムスンおよび関連会社による買い占めが主要因だったそうだ。社員に配ってテストしてもらうため、初期ロット約1000台の大半を同社関係者が購入したらしい。つまり、テストユーザーにされてしまった一般消費者の数はそれほど多くはなかったようだが、それにしても社員テストの規模の大きさといい、グローバル市場で成功するサムスンの強さの一因を見た思いである。これもサムスンの成功を支える暗黙のエコシステムの1つといえるだろう。