「ビジネスに正解はない」――この言葉がこれほどしっくりくる時代もないでしょう。解決に向けた“近道”や“銀の弾丸”、“方程式”を用意できない類の問題が増えています。だからこそ、全ての問題に共通する最善策があるとすれば、それは「考えること」ではないでしょうか。「謀多きは勝ち、少なきは負ける」は、毛利元就が我が子に対する戒めとして用いた言葉だそうですが、環境の変化に適応して時代に振り落とされないよう、頭をフル回転させて考えることが必要です。では、企業がそうした体質へ変換するには、何を実現すれば良いのでしょうか。
2.2.1 ひとりの人間の知恵ではなく社員全体の知恵
まず、「考えるのは誰なのか」という根本問題があります。
昨日までと違う今日を生きる現代、企業では「この人に聞けば全てが分かる」「この人に任せておけば大丈夫」が通用しない種類の問題が増え、特定の誰かが“頭脳”となって全体を統制するという組織モデルでは、状況に対応していくのが難しくなっています。それよりも、組織を構成する社員がそれぞれの頭を使って考えた結果を有機的に組み合わせていくことで、組織として思考力を高めていく方が状況に対応しやすいのです。
これは何かに似ています。そう、第1章で触れた「集合知」の相似形です。ひとりの天才に頼るのではなく、大勢の知恵をつなぐことで問題解決に近づけていく。いわば、企業の総力を挙げて“脳力戦”を展開するわけです。そして、そこで知識創造の新しいあり方として、ソーシャルテクノロジーの適用を考えてみようというわけです。「企業へ適用すると言っても、要はコンシューマー分野の成功例を転用するだけではないか」と見られるかもしれませんが、現実にはそれほど簡単ではなく、エンタープライズならではの工夫が不可欠です。その適用法については、この後の章で詳しく説明します。
2.2.2 社員を多面的に光らせる
「総力を挙げて」という意味では、社員全体の知恵だけでなく、社員一人ひとりの知恵をフル活用するという観点も同じ延長線上にあります。一人ひとりの社員は、単に“社員”として捉えると、見せる顔はひとつかもしれませんが、ひとりの“人間”としては意外にいくつもの顔を持っているものです。
そのオフの側面――業務以外のエキスパーティズム、社外での人とのつながりなど――までを社内のソーシャルテクノロジーに乗せると、それが意外なところでビジネスに貢献する可能性があります。後述するNTTデータの社内SNSでも、ある企業と取引を始めたい営業職が「○○社にパスを持つ人を紹介してもらえませんか」と質問を投げ掛けたところ、パーソナルな人脈をもとに協力を申し出た社員が多くいたケースがありました。各社員が持つオフの顔もリソースとして決して侮れないということです。
2.2.3 社員の働きやすさと満足度
企業が上記のような体質に変わるためには、そこで働く社員一人ひとりの働きやすさという面も見逃がせません。
企業のソーシャルテクノロジー適用で得られる効果には、企業にとってのものと、社員にとってのものの両面があります。社員にとっての効果とは、働きやすさや従業員満足度の向上です。第3、4章で紹介する活用事例でも“社員目線”の適用効果を考察し、ソーシャルテクノロジーが企業に及ぼす効果の実態に迫っています。
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