四方を海で囲まれた日本では、古くから漁業が盛んに行われ、かつては世界一の漁獲量を誇っていた。しかし現在は、漁業従事者の人材不足や高齢化に加え、気候変動による海水温上昇や乱獲などにより、日本の2020年の漁獲量は423万トンと、ピーク時(1984年)の3分の1まで減少した。
また、大気中に排出される二酸化炭素(CO2)のうち、海洋からの排出量が約3割を占める。人間活動からの排出量と比べると、約7倍の数値となる。加えて、海洋が持つCO2吸収能力の向上も課題だ。
そんな水産業を取り巻く環境や地球環境問題に立ち向かうべく、NTTは、品種改良技術を開発するリージョナルフィッシュと合弁会社「NTTグリーン&フード株式会社」を設立し、2023年7月1日より事業を開始する。
「人間の叡智である“技術”で自然のパワーを上手く引き出していく。そうすることで、食糧の増産や環境問題に対応することができる」。NTTグリーン&フード 代表取締役社長の久住嘉和氏はこう語った。
(左から)NTTグリーン&フード 代表取締役 久住嘉和氏、同社 取締役 梅川忠典氏
同社は、「環境に配慮した魚介類の生産・販売」に先行着手する。具体的には、リージョナルフィッシュが持つ品種改良技術を魚介類に適用し、魚介類の成長速度を高めるという。「トラフグの場合、成長性が1.9倍になり、“二毛作”ができるようになる。日本の食糧問題の解決策となり得るのではないか」と久住氏。
NTTグリーン&フードの事業構想
成長速度が高まることで飼料利用効率も上がり、飼料の4割減を実現できるという。養殖に必要な電力の削減にも寄与するとのことだ。
さらに、品種改良を行うことで、従来の天然種とは異なった特徴を持つ地域固有の魚介類も開発・生産できる。「マダイであれば、可食部が1.2倍に増加するうえ、寄生虫やマイクロプラスチックを体内に含まない安全な魚介類を提供できる」(久住氏)。
魚介類のみならず、地球にやさしい藻類の開発にも取り組む。藻類に品種改良技術を適用することで光合成や増殖機能を活性化させ、通常よりも多くのCO2を体内に取り込むことができるようになるという。