自前主義を捨て、パブリッククラウドのパワーをフル活用する──。
キャリアネットワークの構築・運用においても、この選択肢が現実のものになろうとしている。先頭を走るのが、米AT&Tとマイクロソフトだ。
2021年6月に両社は、AT&Tがプライベートクラウドで運用してきた4G/5Gネットワーク(以下、5G網)をAzure上へ移管する3カ年計画を発表。ネットワーク機能をAzureへ移すだけでなく、運用を担うAT&Tのエンジニアと知的財産まで含めてマイクロソフトへ移管する大型プロジェクトが始動した。
両社が狙うのは、通信事業者の事業体制とビジネス構造の変革だ。日本マイクロソフト 通信メディア営業統括本部の大友太一朗氏はこう語る。
「インフラ構築・運用を我々に任せることで、AT&Tはネットワーク/サービスの企画と販売に集中できる。設備投資もCAPEXモデルからOPEXモデルへ転換する。通信事業者はARPUが低下するなかで“新たな稼ぎ方”を構築しなければならないが、パブリッククラウドへの移行によって高付加価値事業へのリソースの集中とコスト効率化が可能になる」
日本マイクロソフト 通信メディア営業統括本部 インダストリーアドバイザー 大友太一朗氏
Azureにキャリア品質の仮想化基盤 オンプレミスも含めて一括運用この計画は大きく2段階に分かれる。2022年末を目処に、Azure上に“キャリアグレード”のクラウド基盤を整備。この基盤上に、2023年から5Gネットワークを展開する(図表1)。
図表1 AT&TモバイルネットワークのAzureへの移行
第1段階は着々と進行中だ。AT&Tの技術・ノウハウをマイクロソフトが引き継ぎ、「ネットワーク機能のオーケストレーションと運用監視、そしてセキュリティを担保する仮想化クラウド基盤を構築している」(大友氏)。運用管理はすべてマイクロソフトが担う。
このクラウド基盤は、AT&T以外の通信事業者も利用可能なサービスとして提供される。図表1【2】に示す「Azure Operator Distributed Services(AODS)」だ。AT&Tと開発・検証を進め、2023年に一般提供を始める予定だ。
このAODSは、大規模な5G網を運用する上で欠かせない2つの要素を備える。1つは、Azureの外まで運用監視の範囲を広げられる点だ。
例えば5GコアはAzureで、RANとMECは通信事業者のプライベートクラウドで運用するケースでも、「それらを一括運用し、エンドツーエンドのネットワークスライスを作ってユーザーに提供できる」(同氏)。複数ベンダーの製品が混在する環境にも対応するため、AT&Tのようにすでに5G網を展開している通信事業者に対してもAzureへ移行する際の「現実的な解を提案できる」。
2つめがセキュリティ/可用性の担保だ。「仮にコア機能の1つが落ちても別の場所で立ち上げてサービスを維持する。AT&Tが使ってきた仕組みにAzureの技術を組み合わせて信頼性、可用性を担保する」。
この基盤を完成させた後、2023年からの第2段階では、いよいよ各ネットワーク機能のAzureへの移行を始める。インフラからネットワーク機能まで構築・運用をマイクロソフトがすべて担うことで、AT&Tはサービスの企画・展開に集中できる体制が整うことになる。