「ISDN」という言葉を聞いても、若い世代はあまりピンと来ないかもしれない。
デジタル回線を使用するISDNは、1988年のサービス開始直後こそ画期的な存在だったが、通信速度が最大64kbpsと低速の割に料金が高く、より高速かつ安価なADSLや光回線に取って代わられて久しいからだ。
とはいえ、これはコンシューマー市場における話で、法人市場では事情が異なる。NTT東日本/西日本が提供するISDN回線サービス「INSネット(ディジタル通信モード)」は、様々な用途で今も活躍している(図表1)。
図表1 INSネット「ディジタル通信モード」の主な用途
INSネットの契約数は、NTT東西合わせて約163万回線(「INSネット64」と「INSネット1500」の合計値、2021年3月末時点)。その9割超を法人ユーザーが占める。
ただ、ISDNや電話回線に使われているPSTN(公衆交換電話網)の中継交換機・信号交換機は老朽化が進み、2025年頃に維持限界を迎える。このためNTT東西は2024年1月から1年かけて、PSTNをIP網へ移行する(図表2)。
図表2 PSTNからIP網への移行
移行に伴い、INSネット(ディジタル通信モード)はサービスを終了するが、それまでに端末やシステムの更改が間に合わないケースが想定されることから、2027年頃までを目途に補完策を提供する予定だ。
既存のメタルケーブルを活用した補完策により、移行後もISDN端末でデータの送受信を行うことは可能だが、INSネットと同一の品質にはならないうえ、信号変換に伴う遅延が発生し通信速度は2~4倍低下する。「すべての機器について検証したわけではなく、どれほどの影響があるかを正確に測ることは困難。できるだけ早期に、INSネット(ディジタル通信モード)を使わない方式に切り替えていただけるよう、継続して働きかけている」とNTT東 ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当 課長の鈴木健太氏は強調する。
NTT東西では移行を促すため、INSネットを利用している企業に個別にダイレクトメールを送ったり、業界団体と協力して代替案を提案するなどの取り組みを行ってきた。それでも、移行状況は用途によってばらつきがあるという。
例えば、診療報酬などの請求データをやり取りするレセプトオンラインは、INSネットを使わない新たな方法としてオンライン資格確認の運用が始まるとともに、厚生労働省が端末代金の補助金制度を設けたことで、「マイグレーションはほぼ完了していると聞いている」(鈴木氏)。
これに対し、EB(エレクトロニックバンキング)/FB(ファームバンキング)、EDI(電子商取引)、機械警備は今なお多くのユーザーが残っている。
なかでもEB/FBやEDIは多くの企業にとって関係することだけに、1社でも多くの企業が早期に移行することが不可欠だ。