建設現場というと、作業服にヘルメット姿の男性が汗や泥にまみれながら働く姿が思い浮かぶかもしれない。しかし近年、大手ゼネコン各社は5G活用による建設現場のDX化を推進しており、その労働環境も大きく変わろうとしている。
背景にあるのは、建設業界における深刻な熟練工の不足だ。
労働人口の減少は産業界全体に共通する課題だが、なかでも建設業界は作業員の約3割が55歳以上と高齢化が進む一方、若手の離職率は高く、29歳以下は全体の1割にも満たない。「今、手を打たなければ、大変なことになる」。大林組 技術本部 技術研究所 上級主席技師の古屋弘氏はこう危機感をあらわにする。
大林組 技術本部技術研究所 上級主席技師 古屋弘氏
同社は、KDDIおよびNECと参加した2017年度の総務省「5G総合実証試験」を皮切りに、5Gによる建設機械(建機)の遠隔操作の実用化に取り組んできた。
建機の遠隔操作に5Gが必要とされる理由は、主に3点ある。
1つめに、本体や現場に取り付けたカメラから送られてくる映像を基に操作を行うため、高精細な映像が必須となること。
2つめに、カメラは2Kや4Kに対応しており、しかも複数台あるので、大容量通信に耐えうるネットワークが求められること。
3つめに、低遅延が重要なこと。遠隔から「前に進め」といった指示を出すと操作信号として送信され、建機は信号を確認したうえで次の動作に移る。その際、遅延があるとタイムラグの原因となることから、リアルタイムな操作を実現するには、遅延を最小限に抑えなければならない。
5G総合実証試験では、土砂災害からの復旧作業を模擬した現場で、アップリンクの低遅延に関する実証が行われた。
作業性の差異を明確にするため、油圧ショベルの一種であるバックホウで掘削した土砂をクローラダンプへ積み込み、40m先まで運び荷降ろしするという作業を3回繰り返し、所要時間を計測した(図表)。
図表 実証実験による効果の検証
実証が行われた当時はまだキャリアの5G商用サービスが始まっていなかったうえ、建機から大容量データをアップロードするため、アップリンクの比率を高めに設定できるローカル5Gが用いられた。
それでも、人間が建機に乗って操縦する搭乗操作の450秒に対し、5Gによる遠隔操作は570秒と約1.3倍の時間がかかった。「どれだけ映像が高精細になっても、実際に現場で目視した方が見やすく、効率が低下することは避けられない」(古屋氏)。ただ、LTEによる遠隔操作と比べると、5Gでは30%効率が改善した。「5Gの低遅延で作業効率が大幅に向上することが証明された」と古屋氏は述べる。