「今後、農業の分野で省力化や生産性向上が不可欠になる」。
日本の農業について、NTTアグリテクノロジーの阿部正和氏はこう強い危機感を募らせる。農林水産省によると、2015年に約208万人いた農業就業者数は2030年には140万人まで減る(図表1)。就業者の平均年齢は67歳と高齢。後継者不足は深刻で、多くの農家が廃業を余儀なくされていく。
人手不足を補い、生産性を高めるカギを握るのは、デジタル技術、そして5G/ローカル5Gを活用したスマート農業のへの転換だ。
NTTアグリテクノロジー 阿部正和氏
図表1 農業従事者数の推移
観光農園を救えイチゴの栽培NTT東日本とNTTアグリテクノロジーは、総務省の「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」として、埼玉県深谷市で「新型コロナからの経済復興に向けたローカル5Gを活用したイチゴ栽培の知能化・自動化の実現」と題したプロジェクトを進めている。
なぜイチゴなのか。人手不足は他の農作物でも同様だが、「観光資源としての役割もある」とNTT東日本の中野郷氏は説明する。例年、多くの観光客が深谷市でイチゴ狩りを楽しんでいたが、コロナ禍で観光客が激減。「地域産業のひとつである観光農園への来園者をいかに元通りに増やすかも重要なテーマになっている」とNTT東日本の市川浩平氏は話す。そこで実証事業では生産性向上に加えて、観光活性化にも取り組む。
農園では、4Kカメラを搭載した自律走行ロボットを走らせ、その高精細映像をローカル5Gで伝送。クラウド上でAI分析する。「まずはイチゴの病害検知を行う。また、映像解析によってイチゴの熟度を判定することで最適な出荷時期も判断する」とNTT東日本の田中智也氏は説明する。
イチゴは熟度に応じて赤みなど外観が変化する。この熟度情報が観光にも活用できる。「観光農園には熟したイチゴの個数に応じて当日の農園への受け入れ人数を決めるが、これを従来は農家の勘と経験で行っていた。それをデジタル化することで、最大まで観光客を受け入れ可能になり、機会損失を抑えられる」(田中氏)。農園内の密状況を検知して安全に観光できるようにするシステムも実証予定だ。(図表2)。
図表2 深谷市での実証の概要(クリックして拡大)
リンゴやブルーベリーなど、観光が重要な収入源になっている農作物は多い。「同じ課題を抱えている他の作物の観光農園にも横展開ができ、地域産業を活用した経済活性化に貢献できる」と中野氏は語る。