人間同士の待ち合わせなら「分」単位で取り決めればいい。世界一高密度で走る日本の鉄道ならば「秒」単位で運行を管理することになるだろう。一般的なITシステムの運用ならば「ミリ秒」単位の制御が求められる。
だが、それ以上の精度、マイクロ秒(μs)よりさらに高精度なナノ秒(ns)単位の時刻精度が求められる世界がある。代表例が、モバイル通信のインフラだ。
電波には干渉がつきもので、隣接する基地局の発する電波の影響を受けて通信品質が劣化する恐れがある。
これを避けるために、5Gの基地局同士はナノ秒単位の時刻同期技術を用いて、上り通信と下り通信のタイミングを合わせることによって干渉を避ける仕組みを採用している。これは、同一キャリアの基地局同士だけでなく、異なるキャリアの基地局との間でも同様だ。5Gの周波数はガードバンドという緩衝体なしに割り当てられているため、近接する周波数帯を利用するキャリア間で干渉を防ぐ必要がある。
船舶で培ったGNSS技術を生かし高精度な時刻同期用受信機を提供この時刻同期の基準が、UTC(協定世界時)だ。標準電波(電波時計)やNTPサーバーで時刻配信されているが、その性能は通信の干渉防止には不十分だ。そこで利用されるようになったのが時刻同期用GNSS受信機で、測位演算とともに算出した時刻データを、UTCに同期した1秒パルス信号(1PPS)に変換して出力する。基地局に直接GNSS受信機が搭載されたり、「グランドマスタークロック」に搭載されたGNSS受信機からPTP方式で基地局に時刻配信されたりする。5Gの標準仕様では、基地局の時刻同期はUTC時刻の±1.5μs以下と定めている。PTPで時刻を配信する際の遅延を考慮すれば、その大元となるGNSS受信機には、ナノ秒オーダーの極めて高い精度が要求される。
このほかにも、金融取引や放送、電力システムを支えるインフラとしてGNSS時刻同期は活用されている。
こうした用途向けに時刻同期製品群を提供してきたのが古野電気だ。
同社はもともと、魚群探知機やソナーといった船舶用電子機器を開発・販売してきたメーカーで、この領域では世界トップクラスだ。GPS/GNSS受信機も、海洋上で船舶の位置を把握するために1980年代から提供してきた。
そこで蓄積した技術やノウハウを陸上でも展開し、車載向けGNSS受信機やETC、WiFi、業務用ハンディターミナルなど幅広い領域に製品を展開している。時刻同期製品もその1つだ。
具体的には、シンプルな1PPS時刻信号を発生するGNSS受信機「GTシリーズ」、発振器と組み合わせて正確な基準周波数(10MHz)も提供する「GFシリーズ」のほか、モバイル基地局等での高精度測定用の「TB-1」といったラインアップを用意している。通信・放送業界をはじめとする社会基盤で求められる高性能な時刻出力を実現している。
古野電気 システム機器事業部の橋本邦彦氏は、「モバイル通信や放送、電力といった重要インフラに使われているため、高い正確性と信頼性が求められる」と話す。
古野電気 システム機器事業部 開発部 要素技術課 主任技師 橋本邦彦氏