講 師 NTTアクセスサービスシステム研究所 | |
岸田朗(きしだ・あきら)氏 |
淺井裕介(あさい・ゆうすけ)氏 |
NTTアクセスサービスシステム研究所 無線アクセスプロジェクト 主任研究員。2007年NTT研究所入所以来、無線LAN制御技術の研究開発に従事。2015年、NTTドコモにて5G運用技術の研究開発を担当。現在はNTT研究所にて11be標準化活動に従事 | NTTアクセスサービスシステム研究所 無線アクセスプロジェクト 主幹研究員。1999年NTT研究所入所。以来、無線信号処理・アクセス制御技術の研究開発に従事。11ac標準化において共存アドホックグループ共同議長を担当 |
Q IEEE 802.11beは、どんな規格ですか。
岸田 IEEE 802.11axの次のメインストリーム規格で、30Gbps以上の最大スループットを目指しています(図表1)。11be登場の社会的背景の1つとしては、コンテンツがリッチになっている状況への対応が挙げられます。例えばAR/VR/MRや高精細ビデオをストレスなく楽しむには超高速・大容量通信が必要です。
図表1 無線LAN高速化の歩み(1~7GHz)(画像クリックで拡大)
Q 最大スループットとして46Gbpsという数字を見ることもあるのですが、正式な目標は「30Gbps以上」なのですか。
岸田 この2つの数字はそれぞれ位置づけが異なります。「46Gbps」は11beでの物理層における最大データレートを示し、11axでの最大データレートを元に11beの拡張機能による効果を加味して算出したものです。一方、30Gbpsは11beでの規格設立趣意書で決定された値であり、物理層での最大データレートではなくMAC層から上位層への通信レベル(MAC SAP)でのスループットであり、よりユーザーの体感に近い速度となります。
Q 11axには「Wi-Fi 6」と名前が付けられていますが、次の「Wi-Fi 7」が11beですか。
淺井 Wi-FiのナンバリングはWi-Fi Allianceが決めることで、公式にはまだアナウンスされていません。一方で11beの認証プログラムについてはWi-Fi 7として議論されている状況です。ですから、現状は「Wi-Fi 7(仮称)」※1と呼ぶべきかもしれません。
※1 Wi-Fi 7
Wi-Fi Allianceでは、IEEE 802.11axを「Wi-Fi 6」、IEEE 802.11nを「Wi-Fi 5」のように規格の新旧がわかりやすい呼称を付けている。Wi-Fi 7の呼称については現時点で決定していないが、本稿では便宜的に(仮称)として記載した。参考URL:https://www.wi-fi.org/who-we-are/current-work-areas#Wi-Fi%207
Q Wi-Fiの歴史は高速化の歴史ともいえます。それが11axでは、この高速化に加えて、多端末環境での効率向上も重要なポイントになりました。11beにも高速化以外の“目玉”があるのですか。
岸田 高速化に加えて、低遅延化・低ジッタ化も対象としているのがポイントです。
11beの規格仕様を議論するタスクグループbeは、3つの異なる議論グループを前身としています。その1つに、RTA(Real Time Application)TIGというWi-Fiの低遅延化・低ジッタ化について議論するグループがありました。RTA TIGの検討結果として、AR/VR/MRなどのユースケースを実現するためには「低遅延・低ジッタを実現する機能もサポートする必要がある」という提起がありました。その後の議論を経て11beのスコープに含まることが決定され、現在に至っています。
ライセンスバンドを用いるモバイル系と、アンライセンスバンドを用いるWi-Fiは相互補完的に利用されていることから、Wi-Fiにおいても低遅延・低ジッタは求められています。
淺井 5Gも高速性に加えて、URLLC※2という低遅延性に関する要件も備えています。5Gと相互補完的に使われるアンライセンス無線であるWi-Fiにも同様の特性が望まれると考えられます。
※2 URLLC
URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)は超高信頼低遅延通信のこと。無線区間で1ms、エンドツーエンドで数十msの超低遅延通信を可能にする