Beyond 5G/6Gは、最大100Gbps以上への高速化、100倍以上の大容量化(bps/㎡)、99.99999%の高信頼性などが要件となる。
さらなる高速大容量化や信頼性向上を追求するうえでは、できるだけロスの少ない通信路(パス)で通信したり、パスを多く確保して冗長性を高めることが必要になる。加えて、6Gではテラヘルツ波など、5Gのミリ波よりもいっそう高い周波数帯が使われ、さらに電波の直進性が増す。そのため、見通し通信できる状況を増やしていくことも不可欠だ。
そこで6Gでより重要になるのがネットワークトポロジーの分散化である。基地局のトポロジーをさらに分散させていくとともに、「Massive MIMO(mMIMO)も分散型へと高度化されるだろう」とNTTドコモ ネットワークイノベーション研究所 無線技術 担当課長の岸山祥久氏は述べる。
NTTドコモ ネットワークイノベーション研究所 無線技術担当課長 岸山祥久氏
Massive MIMOは、5Gの主要技術の1つだ。大量のアンテナ素子を1つのアンテナに配列して指向性のあるビームを生成し、通信容量を拡大する。その分散型とは、大量のアンテナ素子を搭載したアンテナを1つではなく、分散配置して、異なる場所から指向性を持つ電波のビームを出せるようにすることだ。
「舞台上の俳優に向かって、複数のスポットライトを集中的に当てるイメージ」とKDDIの小西聡氏は説明する。
周波数利用効率が向上分散MIMOには、近くのアンテナを利用して通信するだけでなく、セル境界における無線品質の劣化が軽減されるというメリットがある。また、「干渉があっても大きな利得が得られ、どこにいても非常に高いパフォーマンスを得ることが可能になる」(エリクソン・ジャパンの藤岡雅宣氏)。
エリクソン・ジャパン CTO 藤岡雅宣氏
個々のユーザーのパフォーマンスが上がるだけではなく、「分散MIMOは周波数利用効率自体をさらに向上させる」と指摘するのはキーサイト・テクノロジー 5G/6Gプログラムマネージャーのロジャー・ニコルス氏だ。
キーサイト・テクノロジー 5G/6Gプログラムマネージャー ロジャー・ニコルス氏
遮へい物の影響を受けない見通し通信のパスが増えるのも大きなメリットだ。
NECは今年1月、実際のオフィスを使って、屋内環境における分散MIMOの実証実験を行った。利用したのは28GHz帯。ミリ波の性質上、特に屋内では壁や設置物による遮へい物や干渉などにより通信品質が低下しやすくなるため、多数の基地局を設置し通信品質を確保する必要がある。それが、分散MIMOによって遮へい物による通信劣化が少なくなり、同時接続数と伝送容量は約3倍になったという。
なお、mMIMOと分散MIMOを合わせた技術は「Cell-Free massive MIMO」と呼ばれる。スポットライトのようにターゲットの動きに合わせてライトが当たるイメージだ(図表1)。KDDIは「個別の通信環境と通信要件に応じて通信エリアをユーザーごとに構築する、ユーザーセントリックなネットワークを6Gで実現するうえで重要な技術」と位置付けている。シミュレーションを行ったところ、アンテナが1カ所の従来型mMIMOと比べて、周波数利用効率が改善されるほか、ユーザーごとの周波数利用のばらつきも小さくなることを確認したという。
図表1 Cell-Free masive MIMOのイメージ