<特集>5G時代の未来シティ小規模都市がスマートシティで成功するには? 地方ベッドタウン・熊本県荒尾市の挑戦

「先進技術の導入が目的ではなく、市民の生活を快適することが使命」。熊本県荒尾市は、人口減少・少子高齢化による様々な課題を解決するため、2017年からスマートシティ化を進めてきた。

熊本県荒尾市は、人口5万1802人(2020年8月時点)、面積57.37平方kmの小規模な地方都市。近隣の都市圏である熊本市と福岡市までは、車や電車で1時間ほど。九州の主要空港へのアクセスにも恵まれたベッドタウンだ。しかし、高齢化率は35.38%と全国平均より7ポイント高く、人口減少・少子高齢化が全国に先駆けて進行している。労働力不足、経済や活気の衰退、医療・介護需要の増加への対応はもちろん、地域住民の移動手段の確保や、災害対策なども求められている。

「今後も75歳以上の人口増え続け、2030年頃にピークを迎えることが国立社会保障・人口問題研究所の推計で分かっている。税収が減り、医療・介護給付費の負担が大きくなっていく中で、行政サービスの質をどう維持、向上できるか。こうした課題をデジタル化や先進技術で解決しようと考えたのが取り組みのきっかけだった」と荒尾市の宮本賢一氏は振り返る。

荒尾市 総務部 総合政策課 スマートシティ推進室長 宮本賢一氏
荒尾市 総務部 総合政策課 スマートシティ推進室長 宮本賢一氏

エネルギー×モビリティの好循環同市の現在のスマートシティ事業は「ヘルスケア」「モビリティ」「エネルギー」「データ利活用」の4分野に大きく分けられる。

このうちエネルギーについては、2017年から三井物産とグローバルエンジニアリングと協定を結び、再生エネルギー事業を進めてきた。市内にはバイオマスやメガソーラーなどの発電施設があり、発電量は市内の一般家庭で使う年間の電力量を超える。再エネを市内で地産地消するほか、エネルギーマネジメントやBCP対策などにも活用する。

2020年10月からは、市内全域を対象とする「オンデマンド相乗りEVタクシー」も開始した。利用者は電話かアプリから予約する。近い時間帯に複数の予約が入ればAIが最適なルートを自動計算し、1台のタクシーで目的地まで運ぶ。このEVタクシーの給電にも前述の再エネが使われている。

三井物産らと提携して行うオンデマンド相乗りEVタクシー
三井物産らと提携して行うオンデマンド相乗りEVタクシー

荒尾市は毎年、路線バスへの赤字の欠損補助金を5000万円以上出していたにも関わらず、路線バスの利用者は少なかった。「別の公共交通があれば赤字補助も少なくなり、利便性も上がるのではないかと考えた。この事業費を捻出するために路線を2つ廃止し、1つの路線を違う形に組み換えた」。

利用料金は通常のタクシーの半額程度で、利用者からも好評だという。高齢者が電話で予約する件数が圧倒的に多いため、スマホから予約すると50円割引になる“スマホ割”を行っているが、現状スマホからの予約率は6~8%程度。しかし市内の携帯ショップに「スマホ割を使うためにスマホを買いに来た。予約の仕方を教えてほしい」という相談が複数件あったといい、「高齢者の方のデジタルデバイドの解消に少しは寄与できているようだ」。

月刊テレコミュニケーション2021年4月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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