「産業機器メーカーの大崎電気をはじめ、多くの会社がAU-500を用いてスマート工場のトライアルに取り組まれている。総務省の5Gの研究開発プロジェクト(令和2年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」)でも、トヨタ自動車など、複数の案件でAU-500が採用されている。スマート工場だけでなく、病院の通信手段としてローカル5Gが使えないかを検証しようというケースも増えてきている」
東京・八王子市に本社を置く通信デバイスメーカー、エイビットで5Gビジネスユニット長を務める池田博樹氏は、同社が2020年5月に発売したローカル5G検証機「AU-500」の現状をこう説明する。
エイビット 執行役員 5Gビジネスユニット長工学博士 池田博樹氏
AU-500は、実証実験などでの利用を想定したローカル5Gの検証機。ローカル5Gシステムの構築に必要な端末、基地局、サーバー(5Gコア)をセットで提供するパッケージで、実証実験の環境を迅速に構築できるようにした。
ローカル5G用の周波数帯の中でエリアの構築が比較的に容易とされる4.7GHz 帯に対応。網構成には、運用の自由度が高いスタンドアローン(SA)方式を採用している。
エイビットではAU-500に加え、IoTセンサー向けのローカル5G検証機「AU-100」も2019年8月から提供するが、これまでに4.7GHz帯の実験試験局の免許を取得した企業・団体の大多数が、AU-500またはAU-100のユーザーだという。
用途をスマート工場に絞り 1000万円を切る価格を実現ローカル5Gの実用化に取り組む多くの企業にAU-500が支持されているのはなぜなのか──。最大の理由が価格だ。
ローカル5Gのシステムをグローバルベンダーの公衆サービス用基地局で構築した場合、5000万円から1億円を超える費用がかかるといわれる。ローカル5Gの技術検証にこれだけのコストを費やせる企業は多くはない。
AU-500は、基地局のシステムスループットをLTEと同等の140Mbpsに抑え、スマート工場で必要とされる機能を必要最小限のスペックで実装することで、検証環境を安価に構築できるようにしている。
端末となるAU-500UE(左)と基地局となるAU-500gNB(右)。いずれも会議室の長机に載る小型の装置だ
池田氏は「5Gで喧伝されている超高速通信には対応できないが、スマート工場で必要とされる100Mbps、10Mbpsといった速度で、確実に接続できることが、AU-500の大きな特長だ。現在、基地局がサーバー(5Gコア)込みで900万円、端末が150万円程度。これらをセットにして980万円で販売している。1000万円を切れば、実証実験で手の届くお客様が多くなると考え、製品のバージョンアップを機に基板数を減らし、この価格を実現した」と話す。
端末の最大収容数についても工夫をこらした。公衆5Gで使われている複雑な接続手順を廃し、基地局に接続できる端末を事前に登録した専用機に限定。必要なリソースブロックを固定的に割り当てるシンプルな手法を用いることで、1つの基地局に同時に最大100台の端末を接続可能にしている。シンプルな技術をうまく使うことで、スマート工場に最適な無線通信システムを実現しているのだ。