10m以上先まで無線で給電できる「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」の実用化が、ようやく実現しそうだ。
総務省は7月、「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」のうち、屋内利用に関する周波数帯や空中線電力などの条件について、情報通信審議会から一部答申を受けたと発表した。順調に行けば、2020年度内に制度化される予定だ。
無線による給電方法は、送電部と受電部を接近させる「近接結合型」と、遠方のデバイス等に給電する「空間伝送型」に大別される(図表1)。
図表1 「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」の仕組み
近接結合型には、送電コイルと受電コイルの間で磁場を発生させ送電する磁界共鳴方式や、送受電間で発生する誘導磁束を利用して電力を送る電界結合方式などがあり、すでに工場のAGV(無人搬送車)や家電製品などの給電に活用されている。
一方、空間伝送型については、国内ではメーカーや大学、業界団体などが参加する「ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)」が中心となって、技術開発や利用環境・利用条件の整備、標準規格化活動に取り組んできた。
空間伝送型には、近接結合型と比べて大幅に伝送距離が長いという利点がある。しかし、送受電間で空中線を対向させ電波として電力を伝送するため、既存の無線通信との干渉や電磁波の人体への影響などの懸念が指摘されていた。
そうしたなか、工場では近年IoT化が進み、センサーやロボットがネットワークに接続するようになっている。ところが従来の有線による給電では、レイアウト変更の際に不便が生じる。また、電池駆動の場合は、電池交換時に稼働を停止しなければならない。こうした課題を解決する手段として、空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムに対するニーズが高まっていた。
国としても早期の実用化に積極的で、2018年8月に公表された「電波有効利用成長戦略懇談会」の報告書では、2030年代に実現すべき7つの次世代ワイヤレスシステムの1つに取り上げられた。その上で、空中線を用いて空間へ意図的に電波を輻射して電力を伝送するという性質を考慮すると、周波数の割当や無線従事者の配置などが必要になることから、「基本的に無線設備として規律していくことが適当」とされた。
これを受けて、総務省は2019年2月に「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム作業班」を設置、技術的条件の検討を行ってきた。