8×8MIMOの実装を可能に
図表2で示すようにLTE-Advancedの機能拡張は、現行LTEに多様な技術要素を付加することで実現されている。このうち、LTE-Advancedがターゲットとする下り最大1Gbpsへの高速化達成のカギとなるのが、空間多重技術のMIMOの高度化と帯域拡張の実現手段となるキャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation、以下CA)という2つのファクターだ。
図表2 LTE-Advancedのイメージ |
MIMOは送受信に複数対のアンテナを使って無線データ通信の高速・大容量化を図る技術である。LTE-Advancedでは、現行LTEで規定されている2×2MIMO、4×4MIMOに加え、8対のアンテナを使う8×8MIMOの実装を可能にすることで、20MHz幅(FDDの片側、以下同)運用時の最大通信速度を下り最大600Mbpsにまで引き上げる。また、現行LTEではMIMOが実装されていなかった上り側も、2×2MIMO、4×4MIMOに対応させる。
もう1つのCAは、複数の搬送波を束ねて帯域拡張を実現する技術のことだ。HSPAの高度化仕様で実用化が進められているマルチキャリアと基本的には同じ技術である。現在、詳細を詰めているリリース10の仕様では、CAにより20MHz幅の搬送波を2波まで束ねられる。これはIMT-Advancedが要求する40MHz幅以上での運用という条件を満たすためのもの。将来的には100MHz幅への拡張も視野に入れている。
LTE-AdvancedではCAで束ねる搬送波の数とMIMOの種類の組み合わせにより、通信事業者の設備条件に応じた形で高速化を行える(図表3)。周波数幅が最大40MHzのリリース10のLTE-Advancedの仕様でも、8×8MIMOの実装により、ターゲットである下り1Gbpsをクリア可能だ。
図表3 キャリアアグリゲーション(CA)とMIMOの実装による高速化 |
現行基地局を有効活用
興味深いのは当初、このCA技術の採用は想定されていなかったことだ。
LTEやWiMAXで使われているOFDMベースの伝送技術には、比較的容易に広帯域化を実現できるという特徴がある。これを生かし、LTEでは1.4MHzから20MHzまでの搬送波幅での運用を実現している。同様にLTE-Advancedでも100MHz幅までの帯域拡張を行うことが初期には考えられていたのだ。
ところが結局は海外ベンダーを中心に提案されたCAが採用された。その理由は、(1)すでにLTEや3Gで主力として展開されている20MHz幅対応基地局装置をLTE-Advancedでそのまま活用できること、(2)現行のLTEとの後方互換性が確保しやすいことの2点だ。
その結果、現行のLTE-Advancedの仕様は、新たなシステムというより、現行LTEの機能拡張版という性格が強いものとなっている。NTTドコモでLTE/LTE-Advancedの技術開発を所管する執行役員・研究開発推進部長の尾上誠蔵氏は、このLTE-Advancedのスペックについて「ドコモとして細かな技術提案でもう少し性能を上げたいと思っていた部分がある」としたうえで「全体としてはLTEを進化させて自然な形で4Gを実現するというドコモの狙い通りのものになっている」と評する。