――いよいよローカル5Gの免許申請が、28GHz帯の100MHz幅からスタートです。総務省のローカル5G検討作業班の主任として、三瓶教授はローカル5Gの制度化をリードしてきましたが、ローカル5Gの意義をどのようにお考えですか。
三瓶 100MHzという帯域を使える自営回線は今までほとんどなかったわけです。かつて自営回線という言葉には、「品質は悪くても仕方ない」といった響きもあったかと思います。しかしローカル5Gなら、5Gと同じ品質を実現できます。これが従来の自営回線とは大きく違うところですが、もう1つ重要なのは「なぜ今、自営回線なのか」です。
その答えはIoTです。Internet of Thingsの「Things」とは、つまり「全て」ということです。当然いろいろなIoTがあり、公衆回線ではなく、自営回線で接続したいケースも多いわけです。プライバシーの問題もありますし、帯域を独占的に使いたいというニーズも大きいためです。
――そこで本格的なIoT時代を迎えようとしている今、ローカル5Gという高品質な自営回線が必要になっているのですね。企業や自治体の期待も高まっています。
三瓶 ただ実は、あまりきちんとした認識がなされないまま、ローカル5Gへの期待感だけが高まっている気もしています。
工場と地方創生では違う――どういうことですか。
三瓶 「ローカル5Gをどう使いますか」と聞くと、スマートファクトリーを挙げる方が圧倒的に多いのですが、ローカル5Gの重要なもう1つの適用分野に、地方創生があります。少子高齢化や過疎化などの問題が深刻になる中、地域の課題を5Gで解決することが望まれています。
ただ、「ローカル5Gの主な使い方としては、スマートファクトリーと地方創生があります」だけだと、そこで議論が止まってしまうのですね。スマートファクトリーをはじめとする産業界でのローカル5Gと、地方でのローカル5Gの使い方は全然違っています。両者は分けて考えなければならないと私は思っています。
――詳しく教えていただけますか。
三瓶 工場などの産業界の場合、ローカル5Gを適用する主目的は生産性向上です。それ以外にないと言ってもいいくらいでしょう。ローカル5Gで生産性が向上できるのであれば、ローカル5Gは産業分野に次第に浸透していきます。
例えば、ローカル5Gを活用してデジタルツインを実現し、サイバー空間上の機械と比較しながら、いつ故障するかを予測する─。デジタルツインのメリットはタイムラグの短縮化です。従来、製造機器が故障すると、まず故障の原因を調査し、それから部品を調達して交換していたため、場合によっては1週間くらいロスしていました。しかし、デジタルツインで、どの部品がいつ故障するか、あるいはいつごろ部品交換するのが適切かが分かれば、部品調達を機器運用中に実施できるので、メンテナンスは半日ほどの部品交換作業だけで済むかもしれません。1週間と半日では10倍以上の差です。
また、ローカル5Gを利用すると、工場内にケーブルを引き回す必要もなくなります。「ケーブルは信頼性が高い」とは言いますが、必ず経年変化します。このため頻繁ではないにせよ、交換が必要になり、人が伴う作業となります。一方、ローカル5Gなら、5Gの機器自体が壊れない限り、交換の必要はありませんし、交換作業時間もケーブル交換に比べると大分短縮されます。
スマートファクトリーについて皆さんに聞くと、「5年後は分からないけど、10年後はおそらくスマートファクトリーになっているのではないですか」という答えが返ってきます。要するにタイミングの問題はあるが、「いずれローカル5Gは入れないといけない」と思っているわけです。
――他にはどういったユースケースに期待していますか。
三瓶 特には建機などの遠隔操作ですよね。高所や災害地など、人が近付くには危険な場所での作業を機械で代替できたら、これほど良いことはありません。人員の確保や危険手当、安全な作業工程の吟味などが全部不要になるのですから。こうしたメリットに対して、通信費がどれくらいかというと、まったく大したコストではありません。
このように産業界の場合、生産性向上とコストのバランスによって、ローカル5Gをいつ導入し、いつ業務を変えるかが決まります。当然タイミングが早い会社もあれば、遅い会社もあるでしょう。タイミングが早い会社は機器代が高くなりますが、これは仕方のないことです。スマートファクトリーなどから機器が導入されて、コストが安くなると、地方創生でのローカル5Gの機器導入が可能になるという流れだと思います。
――ローカル5Gよりもコストの安いWi-Fiで、スマートファクトリーやスマートコンストラクションを実現するという選択肢はありませんか。
三瓶 ミッションクリティカルな用途にWi-Fiは使えません。これは間違いないことです。