超高齢社会へ向かう日本の課題が山積みだ。その課題解決の手段として期待されているのがIoTやAIなどの先端技術だが、そもそも何に困っており、どのようなソリューションが必要とされているのだろうか。「その答えは障がい者が知っています」と断言するのが、スマートインクルージョン推進機構代表理事の竹村和浩氏だ。
スマートインクルージョン推進機構 代表理事 竹村和浩氏
「スマートインクルージョン」とは竹村氏が考案した造語である。スマートはIT化、インクルージョンは包摂という意味。1人ひとりの多様性を認め、包み込むように受容することをインクルージョンという。「AIやIoTといったテクノロジーの力で、『障がいがあってもなくても共に暮らせる社会』を実現したいということです」(竹村氏)
スマートインクルージョン推進機構は、竹村氏のビジョンに共感した元Google副社長の村上憲郎氏をはじめ、医師や弁護士、AI企業のCEOやSDGsの専門家など、十数名の理事・アドバイザーから構成される。
2018年からは石川県加賀市からの受託事業として、スマートインクルージョンを市の施策に取り入れるプロジェクトがスタートした。きっかけは、竹村氏の著書を読んだ加賀市長からの1本の電話だった。同プロジェクトでは、障がい者情報の一元化、スマートホーム、スマートモビリティなどを実現し、地元の障がい者が「親亡き後」も安心して暮らせるシステムを構築することを目標にしている。
竹村氏がこうした活動を始めた背景には、ダウン症を持つ次女の存在がある。「障がいを持つ子の親が、どんな障がいであっても共通に持っている悩みが『親亡き後』という問題です。子どもを残して死ねないと。でも、最近のテクノロジーの進歩を見て、この悩みを解決できる可能性が出てきたと思いました。テクノロジーの力によって、親亡き後を安心して任せられる社会にしていける可能性です」
こうした障がい者を包摂する社会を実現するためには、社会全体の精神的・経済的な余裕も求められる。「障がい者が大事にされる社会とは、余裕のある豊かな社会です。経済的に苦しく、障がいのない人も生きるのがやっとなところに、我々の子供たちが入れてもらえるはずがない。そのためにも、IoTやAIなどの次世代産業によって、日本が豊かさを取り戻す必要があります」
竹村氏がたった1人で5年前に始めた活動の輪は今、国会議員によるスマートインクルージョン議連も近く発足予定など、大きく広がろうとしている。