交通事故死亡者ゼロ――。この人類の悲願を達成するため、クルマの安全技術は日々進歩しているが、残念ながら死亡事故の減少ペースに下げ止まりの傾向が見えてきている。
警察庁の統計では、2000年から2009年までの10年間で死者数は9073人から4979人へと約45%も減少した。だが、その10年後の2018年は3532人と3割しか減っていない。減少ペースは明らかに鈍化している。
これは日本に限ったものではなく、欧州でも同様だ。米国のように2015年に事故死者数が増加した例もある。
2010年代は、自動車が障害物を検知してドライバーへの警告やブレーキの補助操作を行う衝突被害軽減ブレーキをはじめ、安全運転支援システムの搭載が進んだ。ドライバーの保護や事故の被害軽減に貢献していることに疑いはないが、“命を守る”という観点で目覚ましい効果があったとは言えない。
クルマの知能化に限界クルマ自体が感知できない範囲の状況をドライバーに伝えるコネクテッドカーサービスは、この状況を打開するためのカギとなる。
現状のコネクテッドカーサービスは、リアルタイム性が求められないものが主流となっている。
例えば、事故発生後に位置情報やクルマの状況を通報する緊急通報システム、運転データから導き出されたドライバーの事故リスクに応じて保険料を算定するテレマティクス保険、クルマのメンテナンス情報をクラウドに収集して状態管理するリモートメンテナンスなどだ。
ここにエッジコンピューティングを組み入れることで、クルマが得た情報をエッジでリアルタイムに解析し、ドライバーへの警告や車両制御に使う安全運転支援サービスも可能になる。
クルマのエッジコンピューティングにおいて、コンピューティングリソースの設置場所としては大きく2つが考えられる。1つめはクルマ自体だ。車載コンピューターによって、センサー情報やクラウドから得た情報を解析する。2つめは、携帯電話基地局や道路設備、あるいは近傍のデータセンター等にエッジサーバーを置くパターンだ。
現在は、クルマへのセンサーやAIの搭載が進んでいることから、前者のクルマ自体を知能化してエッジコンピューティングデバイスとして使うアプローチが主流となっている。
ただし、この方向性には限界も指摘されている。
理由の1つは、1台のクルマがセンシングできる情報は限られることだ。複数のクルマが協調して安全かつ効率的な走行を行うCACC(協調型アダプティブ・クルーズ・コントロール)など、近隣のクルマ同士で情報共有するための取り組みは進んでいる。しかし、この場合も連携できるのは、すぐ近くのクルマに限られる。例えば予定走行ルートを30分前に通ったクルマの情報など、より多くのデータを活用できたほうが優れていることは間違いない。
もう1つの理由は、クルマのコンピューティング能力にも限界があることだ。
大手自動車メーカーや通信事業者等が共同で5Gを活用したコネクテッドサービス開発を進める「5G Automotive Association(5GAA)」に参画するノキアで技術統括部長を務める柳橋達也氏は、クルマのコンピューティング能力が肥大化すると「消費電力が大きくなりすぎ、EVの航続距離が割を食うことも起こり得る。クルマ側の比重を軽くする方向性が、自動車メーカーでも検討されている」と指摘する。
ノキアソリューションズ&ネットワークス 技術統括部長 柳橋達也