7月19、20日に開催された「SoftBank World 2018」――。2日目の基調講演の冒頭でソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏は「すべての産業で、デジタルデータを用いてビジネスを再定義することが重要になっている」と強調。
さらに「5Gのネットワーク、IoT、AIなどが今年実用化」され、「統計データや販売データだけなく、人間の五感、心、行動、趣味趣向など、すべてをデジタル化できる技術も出来上がっている」と述べた。企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組むための環境は、すでに整っているというのだ。
宮内氏は、スマートフォンの普及に伴い、フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグルといった企業が、この10年で爆発的な成長を遂げたことを取り上げ、「ネットワークの価値はユーザー数の2乗で大きくなる。これが彼らのビジネスを大きく広げた」と指摘した。
そして「次に出てくるモノとモノ、モノと人、モノとロボットとの接続は、幾何級数的なボリュームとなり、そこに新たなビジネスチャンスが生じる」との見方を示した。来るべきIoTの時代には「各産業分野で新たなプラットフォーム企業が登場し、大きなビジネスに育つ可能性がある」。
その上で宮内氏は、「デジタル化では、中国はアメリカを追い越すほど進んでいる」と、ソフトバンクがクラウド事業で提携するアリババの取り組みを中心に具体的な動きを紹介した
EC事業を手がけるアリババは、商品の売上やユーザーの消費行動など多様なデータを自社のクラウドに集約してリアルタイム分析するなどしているが、宮内氏が特に強調したのはそのスケールだ。「アリババグループの扱うデータ量は、年1000ペタ(ペタ=1000兆)バイト。ソフトバンクも結構データを扱っているが、それでも1ペタバイトだ」。
アリババは、昨年開催したセールスイベントにおいて1日で2.8兆円を売り上げ、1秒間に32万件のオーダー、25万件の決済を行った。「2.8兆円はYahoo! JAPANの1年間の売上に相当する。これを処理するには強力なバックボーンのコンピューティングシステムが必要だ」。
こうした中国のデジタル化の動きの大きな特徴として宮内氏が挙げたのが、オフラインでの活用が進んでいることだ。
その代表が、現金を使わないスマート決済。店舗でのスマートフォン決済の利用率は、日本は6%、米国が5%に過ぎないのに対し、中国では98.3%もあるという。さらに中国では、顔認証による決済システムや、これと音声認識を組み合わせた地下鉄の券売機なども実用化されていると紹介した。
そして、ここで重要なのは、「モバイル決済が普及することで、その人が何を買って、いつ、どういう行動をしたかが、全部デジタル化される」ことだ。
中国では、集約された情報は信用力としてスコアリングされており、「中国の銀行では、わずか1秒で融資の判断が行えるようになっている」。しかも、「スコアの高い人は、レンタカーやレンタル自転車の保証金免除、賃貸マンションの敷金減額など、多くのサービスが利用できる」という。
中国ではスマートフォン決済を通じて消費者の行動がすべてデータ化されている
こうした取り組みを進めるためにアリババでは、自ら大規模なクラウドを自社で構築。「ドローンや家電など、従来のデジタルデータの領域を超えてすべてをデジタルし、企業活動につなげようとしている」という。アリババはAWSと同様、そのインフラをクラウドサービスとして一般企業に広く提供している。
宮内氏のこのプレゼンテーションを受け、アリババグループのクラウドビジネスの責任者を務めるKu Wei氏が登壇し、アリババのクラウド事業が中国で1位、世界で3位の位置につけており、中国でのシェアは50%に及んでいると説明した。
アリババのクラウドは、北京近郊の雄安新区や上海に近い無錫市でのスマートシティプロジェクトにも採用されており、水道やインフラなどの情報の集約・分析を通じて都市が抱える問題の解決に寄与しているという。Wei氏は「オリンピックの公式クラウドサービスプロバイダーにもなっており、北京、平昌に続いて、東京オリンピックでも活用される」と述べた。
アリババのクラウドサービスでは、サーバー管理やデータ処理、ネットワークとの接続といった基本サービスだけでなく、AIを用いた顔認識、音声認識、ビッグデータの処理などの機能も提供。APIを通じて地図サービス、金融・決済などの機能も利用できるようにしている。独自のデバイスOSやエッジ処理のプラットフォームも展開する。
日本でもソフトバンクがアリババとの合弁会社「SBクラウド」を設立し、昨年からアリババのクラウドサービスを展開している。宮内氏は「アリババのクラウドを活用することで、極めて安価に、スピーディにデジタル化を進めることができる」と強調した。
アリババのクラウドを活用することで、非常に低コストでデジタル化が可能になるという