クラウド型コラボツールの衝撃――グループウェア+リアルタイムコミュニケーションをSaaSで提供(後編)

グループウェアにリアルタイムコミュニケーション機能が加わり、クラウド型コラボレーションツールとして提供され始めた。そのインパクトをレポートする。

普及のカギ握る販売パートナー

ここで、クラウド型コラボレーションツールが、これまでグループウェア製品を販売してきたパートナーにもたらすインパクトを考えてみよう。パートナーの役割は小さくなるのか、それとも役割の質が変化するのか。結論を述べると役割は小さくならない。ただし、その中身は変わる。

例えば、マイクロソフトは、「当社の強みはマイクロソフト製品を販売するためのパートナー支援網を構築していること。その支援網がクラウド型サービスの支援網になる」(米田氏)と従来のパートナーの力に期待する。MOSの導入支援を行うパートナーはスタート時点で30社だったが、現在は300社以上に増加しているという。

ユーザー企業にとっても販売パートナーの存在はメリットがある。製品やサービス単体としてでなく、他の製品と組み合わせて導入したい企業にとって身近にいる販売パートナーは頼りになる存在だ。ICTの提供形態が製品べースからサービスべースへと移行しても、きめ細かなニーズに応えることがICTの提供サイドにとって重要な価値だ。

一方、製品販売からサービスの提供へという提供形態の変化は販売を主体としてきたパートナーのビジネスに変化をもたらす。クラウド化の流れの中でサーバーというハードウェアを売るビジネスは減少していくだろうが、そのこと自体がプラス要因ともなる。ソフトウェアをハードウェアとセットで提供するためにコンフィグレーションなどハードウェアの設定作業に負荷がかかっているが、クラウドサービスになればその部分はクラウドサービス事業者の領域となる。その分、パートナーは企業に対してサービスの利用法を提案するなど、自社のリソースを競争力強化に振り向けられる。クラウドサービスは販売パートナーの参入を促す流れともいえるわけだ。

実際、クラウド型コラボレーションツールに対するSIer/NIerの視線は熱い。2010年に入って、NECが小企業を対象にMOSを活用した企業向けPCの販売に乗り出したり、ソフトバンクBBがスマートフォンとMOSを組み合わせたソリューションの開発をマイクロソフトとともに進めることを明らかにしている。また、協立情報通信は中堅・中小企業を対象にMOSの利用方法を提案したり、NTTドコモのスマートフォンとMOSの連携ソリューションを紹介する取り組みを始めている。

販売面だけでなく機能強化という点でもパートナーやSIerの力には期待がかかる。例えば、LotusLiveの場合、音声通話でSkypeと連携し、営業・顧客管理業務においてミーティングを行うケースを想定してセールスフォースと連携している。さらに、世界中で5000万人以上のユーザーがいるビジネスSNSのlinkedinにシームレスにアクセスできる仕組みも実現している。IBMは他社ソリューションとの連携をさらに推し進めるべく、従来限定的だったLotusLiveのAPIを2010年後半からすべてのIBMビジネスパートナーに公開することを決めている。

サイボウズの立ち位置はユニークだ。サイボウズLiveをサイボウズOfficeやサイボウズガルーンなど既存グループウェアと併用するセカンドグループウェアと位置づけている。サイボウズLiveの利用は無料。それによって小規模企業をグループウェアの世界に招いて、グループウェアのすそ野を広げていくというアプローチである。

だが、サイボウズLive単体として利益を出すことを視野に入れている。利用料金が有料となるのは21人以上のグループで利用するケースと、アーカイブ機能や検索機能など年内に提供を予定しているオプション機能を利用するケースだ。それによって収益を得て、「来年中に単月べースの黒字化を目指す」(丹野氏)という。今後、サイボウズLiveのAPIを公開してサードパーティーのソフトがサイボウズLiveで動くようプラットフォーム化を進めることによってサイボウズLiveの価値を高めていく戦略だ。

スケジューラと会議室予約機能の利用がもっぱらだったグループウェアがリアルタイムなコラボレーションツールへと変貌を遂げたことは企業向けコミュニケーションシステムの提供者に大きなインパクトをもたらす可能性をもつ。

なかでもモバイルとの親和性の良さを含めて、クラウド型コラボレーションツールと、音声通話やWeb会議など既存の企業内/企業間コミュニケーションシステムとの競合が浮上する可能性も高い。

だが、一方で新たなプラットフォームの登場は新たな付加価値を発揮するチャンスともなるはず。クラウド型コラボレーションツールはICTベンダーに新たな対応を迫っている。

クラウド型コラボツールの衝撃(前編)

月刊テレコミュニケーション2010年8月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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