水管理コストの半減を目指す――。
IIJが取りまとめ役となって発足する共同研究グループ「水田水管理ICT活用コンソーシアム」の目標について、IIJネットワーク本部・IoT基盤開発部長の齋藤透氏はそう話す。
IIJネットワーク本部・IoT基盤開発部長の齋藤透氏
同コンソーシアムで研究開発を進めるのは、水田の水管理をリモートで行うIoTシステムだ。水位・水温を測定するセンサーと、水量を調節する自動給水弁を水田に設置。これにより、遠隔から水田の状況監視と給水のコントロールを可能にし、農家が水位・水温の確認と調節のために水田を見廻る作業の負荷を軽減するのが狙いだ。
センサーからのデータ収集および自動給水弁の制御には、LPWA無線通信規格の1つであるLoRaを採用する。低消費電力で長距離通信が可能なLoRaの特徴を活かして、低コストかつメンテナンス負荷の低いシステムを開発する。
水管理システムのイメージ
データの管理や機器の制御等を行うためのネットワークとIoTプラットフォームはIIJが提供。また、コンソーシアムの構成員である法人および自治体と共同で、センサーやLoRa基地局、アプリ等の開発、フィールドワークや調査・検証、利用者ニーズの整理等を進める。2017年度からの3年間で研究を実施する。
なお、構成メンバーは下記のとおりだ。
■研究代表機関:IIJ
■共同研究機関:笑農和(えのわ、本社:富山県滑川市)、トゥモローズ(本社:千葉県我孫子市)、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、静岡県交通基盤部農地局
■農林漁業経営体:浅羽農園(静岡県袋井市)、農健(静岡県磐田市)
センサーは1万円、基地局は3万円で量産化
前述の通り、今回の取り組みは農林水産省の公募事業を受託して行うもので、機器や運用コストを抑えることで経営体が容易に導入できるシステムを開発することが目的だ。
具体的には、水田に設置しネットワーク経由で水位・水温情報を収集するセンサーの量産時の販売価格は1万円以下、自動給水弁については4万円以下を予定しているという。低コストに導入・運用できる「ICT水管理システム」を開発し、静岡県の経営体での実証実験で実際に水管理にかかるコスト効果を測定。3年間の実証の後、量産化につなげたいと齋藤氏は展望する。
水管理に係る農業経営体の課題
今回の取り組みは、広範囲に水田を持つ大規模な営農法人をターゲットにしており、齋藤氏は水管理労力の軽減が大きな課題となっていると説明する。「大規模な農家では、数百枚の田んぼを持っている。水田の集約は進んでいるが飛び地となっている場所も多く、すべてを見回ってチェックし、給水弁の操作を行うには大変な手間がかかる」という。農地の集約や農業機械による効率化は進んでいるものの、圃場間の移動ロスが大きく、水管理の作業に費やされる労働時間は減っていないのが現状だ。
また、作付する品種が多様化したことで「品種ごとに水管理が異なる。複雑化している」ことも作業効率を低下させる要因になっている。加えて、自治体レベルでは渇水の悩みも大きく、地域一体的に計画的な給水管理を行うためのシステムも求められているという。
水田水管理ICT活用コンソーシアムに参画する静岡県では、取水量や水路各地点での流量等を管理・制御する水管理システムを構築しているが、「供給側の整備はかなり進んでいるものの、需要側でどの程度水を使っているかというデータが取れない状況」にある。今回開発するシステムで需要側の水量を可視化することで、より地域一帯的に効率的な水管理を行えるようにすることを目指す。