我が国の官民一体化によるAI+ビッグデータ活用へ向けた体制とは?前項で見た通り、ディープラーニングを活用することにより、あらゆるビジネスは一段と高次化・精緻化されていきます。
ディープラーニングを搭載したAIの認識精度を上げるために大量のデータが必要なことは前述しましたが、ディープラーニングには、
「データが多ければ多いほど、それに比例して認識精度も向上する」
という特徴があります。一定量以上のデータがあれば、それ以上のデータ量の多少に関わらず、認識精度が一定に収束していくようなものではありません。
そのため、莫大なビッグデータを収集し続ける米国巨大企業勢は、圧倒的な強みを持っていると言えるのです。
一方、日本企業の状況はどうでしょうか?
単純に考えると、
「1社で持つデータ量で不足するならば、複数企業のデータを活用すればよい」
という案が出てくるでしょう。
しかし、ビジネスで最も価値の高いビッグデータの1つである、顧客の個人情報を含むビッグデータについては、従来は個人情報保護法の定めにより、第三者への提供が規制されていました。
正確に言えば、「個人情報の本人の許可を取れば、第三者に個人情報を提供できる」という制度になっていましたが、ビッグデータの中に含まれる個人情報の本人すべてに許可をとることは現実的ではありません。
そこで、2017年5月30日から施行された改正個人情報保護法では、「匿名加工情報」という概念が導入されました。
「匿名加工情報」とは、「個人情報を、当該個人情報の本人を特定できないように加工した情報」であり、改正法に規定された手法によって匿名化された情報は、個人情報の本人に断りなく目的外利用をしたり、第三者へ提供したりできます。
基本的に、今回の個人情報の改正においては、度重なる個人情報の流出事故を受け、個人情報の取扱いを一段と強化する、規制の側面が多くなっています。
しかし、「匿名加工情報」の導入は、我が国の各企業がビッグデータを活用しやすいようにという、数少ない規制緩和の性格を持つものです。
「匿名加工情報」は、世界で初めて我が国が導入する概念であり、まさに政府が、民間のビッグデータ活用を支援しようとするもの、と言えるでしょう。
また、その他の国の支援体制としては、2016年、安倍総理の指示を受け、「人工知能技術戦略会議」が設置されました。この会議が司令塔となり、総務省・文部科学省・経済産業省の人工知能技術の研究開発の連携が図られています。
図表3 「人工知能技術戦略会議」体制図
出所:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) ホームページ
いかがでしょうか。
これまでのところ、残念ながら、ディープラーニングをはじめとする先端のAI技術開発においては、米国巨大企業勢が一歩も二歩も先を行っています。
しかし、我が国においては、国を挙げてのキャッチアップ体制が作られつつあります。
また、基本的な技術開発においては後塵を拝していても、実際の応用技術になれば、コンピュータの中だけでなく、現実の「ものづくり(製造業)」との連係が必須です。
そこに、我が国がリードするチャンスがあるのではないでしょうか。
ぜひ、先端AIの分野において、日本企業の台頭を期待したいと考えています。