――妹尾さんが本部長を務めるネットワークプロダクト事業本部は通信事業者向けの事業を展開していますが、長年この分野を歩んでこられたのですか。
妹尾 富士通に入社してだいぶ経ちますが、その半分くらいはエンタープライズをやっていました。通信事業者向けの装置開発を担当するようになったのは2000年からです。だから、まだ“若者”ですよ(笑)。
――2000年というと、IP化の流れが本格的なうねりとなりだした頃です。通信事業者が大きな変革期に突入するなか、通信事業者向けビジネスを担当され始めたのですね。
妹尾 逆に言うと、だから呼ばれたのだと思っています。少し言葉は悪いかもしれませんが、「言う通りに作れ」というのが以前の通信事業者向けビジネスでした。しかし、IP化以降は、「提案してくれ」というふうに変わっていきました。エンタープライズと通信事業者のお客様の意識がだんだん似てきたわけです。特にここ数年、その変化が激しくなっています。
IP化という1つの大きな錦の御旗の下、全世界の通信事業者が同じ方向に進んでいた頃は、まだよかったのです。しかし、今は違います。「その次、何するの?」とお客様は求められます。
例えば、米AT&Tは「グーグルのようになる」といろいろな変革に取り組んでいますが、こうした状況を見ても、変わってきたなと実感しますね。
富士通 執行役員 ネットワークビジネスグループ ネットワークプロダクト事業本部長 妹尾雅之氏
DCIでの負けをキャッチアップ――通信事業者の変革が進むなか、富士通は通信事業者向けビジネスにどのように取り組んでいるのですか。まずはネットワークプロダクト事業本部の事業領域について教えてください。
妹尾 我々は、主に通信事業者向けのプロダクトビジネスを担当しています。通信事業者向けのSIやサービス、ソフトウェアについては、ネットワークソリューション事業本部という別の組織がメインに担当しています。
――主力のプロダクトは何ですか。
妹尾 ざっくり言うと、光伝送システムと携帯電話基地局の2つが主力です。光伝送システムについては、お客様の仕様書に沿って開発するNTTの仕様化品を古くからやっているほか、北米向けに「FLASHWAVE」というシリーズを提供しています。また、2年前からは「1FINITY」という新しいプロダクトも販売しています。
基地局に関しては、NTTドコモ向けにいろいろとやらせて頂いています。
――最初に、光伝送システムのほうから詳しく教えてください。最近の光伝送システム市場はどうですか。
妹尾 市場環境はフラットで、極端な変化はありません。通信事業者の需要が漸減傾向にある一方、データセンター事業者の需要は少し増えてきているので、全体としては若干の増加傾向にあると感じています。
――データセンター事業者の需要とは、いわゆるデータセンター相互接続(DCI:Data Center Interconnect)市場のことですか。
妹尾 そうです。データセンターを持っているお客様が、自前でデータセンター間をダークファイバーで接続する案件が北米を中心に増えています。
以上が全体の市場感ですが、こうしたなか富士通のビジネスはどうなっているかというと、今シェアを少し落としています。
競合はデータセンター間のビジネスを堅調に伸ばしており、そこで負けてしまっているのです。富士通は少し開発に出遅れてしまいました。コストインセンティブなデータセンター間の市場では、いかに安くできるかが重要で、今後どうキャッチアップしていくかが課題です。
富士通は元々、Tier1の大きな通信事業者には強いんです。ですから、通信事業者以外のビジネスをどのように伸ばしていくかが最大のポイントだと考えています。
――主として日本と北米で光伝送システム事業を行っていますが、それぞれの売上の割合はどうなっているのですか。
妹尾 日本と北米の売上は、半々くらいですね。北米にも数多くのお客様がいます。
――光伝送システムにおける富士通の強みは何ですか。
妹尾 国家プロジェクトでコヒーレント通信のDSPを複数社で開発しており、それが一番の大きな差別化要素だと思います。現在、400Gやさらなる長距離化に向けた開発を進めていますが、海外ベンダーと互角に戦えます。