野村総合研究所(NRI)は2016年11月21日、ICT・メディア市場の動向分析と市場予測を発表した。発表に合わせて開催された説明会では、「VR(仮想現実)」「スポーツ×ICT」「C2Cシェアリングエコノミー」「AI(人工知能)」の4テーマを特に取り上げて、市場トレンドを解説した。ここでは、成長が期待されるVRについて、市場トレンドと普及への課題を紹介する。
「1億総ICT人材」に向けて必要なこと
まず、市場全般のトレンドについて解説したICT・メディア産業コンサルティング部上級コンサルタントの阿波村聡氏は、日本が「真のICT先進国」となるために必要なことととして意識改革の重要性を強調した。
野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部
上級コンサルタントの阿波村聡氏
AIの活用によって人の雇用が代替される可能性が議論されているように、今やICTはあらゆる産業に影響を及ぼしつつある。例として阿波村氏が挙げるのが、シェアリングエコノミーの台頭だ。ICTを活用して新規に参入したプレイヤーが急速に台頭し、既存ビジネスが変革を促されるケースも出てきている。阿波村氏は、従来のように単なる効率化や電子化にICTを活用するのではなく、「いかにしてビジネスを変えられるか」という攻めの意識でICTを捉えることが重要だと指摘した。
「真のICT先進国」になるためには意識改革が必要
意識改革に向けた具体策としては、IT部門だけでなく現場部門がAIやIoT、VRといった新たな技術の既存事業への適用に取り組むことができるよう「テクノロジーコーチングが必要になる」と述べた。今後は、業界・職種を問わずすべての人材にICT活用スキルが求められる「1億総ICT人材」時代を迎えるとし、「教育改革を含めた底上げが必要になる」という。
VR普及への最大の障壁とは
VR市場について解説した副主任コンサルタントの山岸京介氏によれば、同市場は当面、「ハイエンド型」と「スマートフォン型」の2つの流れがそれぞれ進展するという。
野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部
副主任コンサルタントの山岸京介氏
ハイエンド型とは、Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VR等のPCやゲーム専用機に接続するハイエンドVR製品を用いて、事業者がVRを活用したサービスを提供するものだ。例えば不動産業において、物件がある現地に赴くことなく事務所で仮想的に内見が行えるようにするサービスがある。また、購入予定の部屋に家具を置いたイメージを具体化したり、リノベーション時の内装(壁紙や照明など)を確認したりといったVR活用サービスが登場してきている。
ハイエンド型とスマートフォン型のメリットとデメリット
不動産のほかにも、観光業においては、観光スポットの映像を見ることでイメージを具体化する、海外渡航の経験のない旅行客に出入国手続きを仮想で実施して現地での混乱を解消するといった使い方があるという。
もう1つ、娯楽業もVR活用が進んでいる業種だ。アトラクション施設にVRを活用することで視覚イメージを変化させ、従来とは異なる体験を利用客に提供するといった活用法が出てきている。既存のアトラクション施設を物理的に改良するのに比べて「比較的安価に、いままでとは違う没入感を得ることができる」(山岸氏)ことから、米国でこうした活用が進んでいるという。
以上の例は、既存の事業者がサービスの付加価値向上にVRを活用しているものだが、山岸氏は「異なる業態のプレイヤーも簡単にこういうことができるようになるため、新規事業者の参入も増える」と予測する。